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 まじないの花 05.才蔵編


※才蔵視点です


 あぁ、クソッ!
 んで俺がこんな姿にならなきゃいけねえんだ!
 そのせいで、何時でもアイツらがちょっかい出してきやがる。俺が攻撃できねえのをわかっていて。
 ……けどな、楽しいって思っちまうんだよ。
 俺は伊賀の忍だ。物心つくころから喜怒哀楽は捨てて、「殺す」ことだけを教えられてきたってのに。自分から捨てたはずのものが、上田に来ていつの間にか取り戻していた。
 この俺が別のモノに染まっちまうなんてな――。
 で、今日はというと、アイツと二人っきりで過ごしている。



 俺達はおしるこで有名な甘味処に向かう途中だった。
 狭い城下なんだから手繋がなくたっていいだろうに、コイツはがっちり握って離そうとはしない。これじゃ、まるで親子だ。そう見られるのは苦い気分になるんだが。
 ……喜色満面な咲弥に、手離せとは間違っても言わねえ。
 だが、コイツは急に苦も無く力をゆるめては繋ぎをほどき、小走りで行っちまう。
 煌びやかな髪飾りが並べられている店の前で足を止め、目についたってよりもお目当てのものを手に取る。

「見て見て! これ、かわいい……」

 俺は咲弥の後を追い、傍によった。
 手にしているのは、桜の花の飾りが施されたかんざし。桜の花の下には色の透けた飾り玉がぶら下がっていて、雫のようだ。コイツが好きそうなやつだな。
 そこへ、店の主人であろう者がやって来る。

「お嬢さんお目が高い! このかんざしは一点物でして……。こんなに繊細な桜と飾り玉は、私は今まで目にしたことがありませんよ」
「そうなのですか? とても綺麗だったので!」

 咲弥の反応がいいのがわかり、店の主人は上機嫌に。
 是非とも付けてみてください、とコイツの髪を軽くまとめてかんざしを挿す。

「これはこれは。とてもお似合いです。貴方の肌は明るめですから、絶対にこのかんざしが合うと私は思いましたよ」

 あぁ、確かに。似合うな。
 店の主人は客に対するお世辞を言わなければやってはいけないが、この口調からは嘘偽りを感じない。ホンモノだ。
 あういう風に褒められて嬉しいのか、コイツは頬を染める。
 そんな顔で、俺を見つめる。
 バッ、バカ……あんま見つめんじゃねえよ。可愛すぎて発狂しちまうじゃねえか。

「才蔵、どうかな?」

 咲弥ははにかんで意見を問いかける。
 どうって、んなわかりきったこと聞くなよな――。

「あぁ。可愛いな……似合ってるぜ、しゃや(咲弥)」

 少しばかり口説き文句で言ってやった。ちったぁ今までの俺の雰囲気を出せたか?
 しかし、第三者には届くはずもなく。

「おっ、やはり弟さんもそう思います?」
「あ、えーっと、彼は私の弟ではなく……」
「もしや、お子さん?」
「いえ、私の子供でもありませんよ。その、彼は……ですね」
「俺はコイツの連れだ」

 この際は連れって言っておく。見た目なんか関係ねえ。
 あぁ、なるほどとつぶやいた店の主人は、納得したようにポンとこぶしを手のひらで受け止めて叩く。

「子守ですか。いやはや、関心ですね〜。お嬢さん、特別にかんざし一文であげるよ」
「えっ? 本当ですか? では、これを一つ……」

 巾着から金を出そうとする咲弥の手を掴んで、止めさせる。

「俺が買う。おい、店のオッサン、これをコイツに頼む」

 懐に入れておいた金を手のひらに乗せて店の主人に突き出してやる。
 俺はガキじゃねえんだ、と睨みつけて。
 それでもやっぱり、このオッサンにはダメみてえだ。
 面白そうにニコニコニコニコしやがって、俺の頭を撫でる。

「ほっほっほ。確かに、一文頂きました」

 あぁ、ウゼエ。
 視点(自分)が変われば世界(まわり)も変わるんだな。
 店を後にする俺達を見送って手を振るオッサンに無性に腹が立った。ま、咲弥が喜んでくれたから良しとするか。

[12/03/06]
別名『才蔵VS店のオッサン』。夢主さん出番少なくてごめんね。おしるこ話は次回予定。

[終]



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