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 血が出ていますよ?


※暴力表現有り


 知ってしまったのです。
 私の愛おしき咲弥は、私の物にはならないということに――。



 それは、若と咲弥と三人でまったりしている時でした。
 若が「咲弥は好いた人はおらんのか?」といきなり彼女に問いました。
 うきうきする若とは対照的に、私の心は沈んでいく。彼女も一人の女子。男を好くのは当たり前です。ですが、私はまだ好きな人はいないだろうと八割方は思っていました。
 しかし、彼女は目をそらして口元をつぐんだ。頬が薄らと赤づいたようにも見える。
 この反応は――。
 あぁ……いる、のですね。
 相手の名など聞きたくはありません。貴女の口から他の男の名など聞きたくはありません。
 知ってしまった私は、何を仕出かすかわかりませんから。
 内に秘めた黒の私に気付くはずもなく、目の前の私の愛おしい女子は若の問いを返す。

「いますよ。誰かは内緒です」
「いいではないか。……才蔵だろう?」

 ケラケラ笑う若に、固まる彼女。
 口を魚のようにぱくぱくさせて、言葉が出ない。
 あぁ、そうなのですか。貴女の好きな人とは、才蔵、ですか……。

「若いってよいのう。のう、六郎?」
「はっ……はい、そうですね……」

 まさか、いきなり振られるとは思っていませんでした。
 若はそんな私が珍しかったのでしょう。またケラケラ笑って、可笑しそうに私の肩を叩く。

「六郎、才蔵に負けたな」

 
***

 
 私の物にならないというのなら、私の手で貴女を私の物にするだけのこと。
 奴には触れさせません。
 こうして、策の実行に移ったのです。
 彼女が部屋から出てくるのを見計らって声をかけ、私に背を向ける前に局部的に術を発動させて気絶させた。後ろに倒れる彼女を抱き留め、上田城地下へと連れて行く。
 ――作戦成功です。
 階段をひたすら下り、ようやく見えてきました。地下の部屋……監禁室が。
 重たくて頑丈な扉を開け、久方ぶりに足を踏み入れる。

「ここは、やはり落ち着きますね……」

 私専用の部屋ですから。
 目当てのものがまだ使えると確認し、慎重に彼女を台の上に固定する。枷が手と足用にそれぞれ四つずつ付いています。いわゆる拘束具というものですね。
 拘束された咲弥はなんとも美しい。
 このまま鑑賞するのもいいのですが、面白くないので目を覚まさせる。

「咲弥、目を開けてください」
「……うぅ。あれ? 六郎? ここは、どこ? この格好は何……?」
「ここは私のもう一つの部屋ですよ、咲弥……」

 あぁ、素晴らしいですね……たまりませんよ、貴女のその体が。その姿、お似合いです。
 もっと、もっと、堪能させてください。
 骨の髄まで。
 私は懐にある短刀を出し、彼女の白い腕にあてる。

「ろっ、六郎?! や、やめて……痛っ!」
「見てください……貴女の雪のような白い肌が、鮮やかな赤に染まっていってますよ……」

 切り口から静かに流れる血まで、美しい。
 つぶらな瞳からほろほろと溢れる涙も、美しい。
 あぁ、あぁぁっ!
 貴女がほしい……貴女のすべて、が。咲弥のすべてがほしい。
 それが叶わぬのなら、私の手で貴女の命を頂戴するだけ。

「血が出ていますよ? ……ああ、私が出させたんでしたね」

 深紅の雫を手に絡め、私はそれを舐め取る。
 それから――。

[12/03/05]
六郎が暗すぎる……。その後はご想像にお任せ。

[終]



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