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 まじないの花 05.六郎編


※六郎視点です


 私が子供の姿になってしまってから数日が経ちました。
 この体で過ごしていて、気が付いたことがあります。良い点と悪い点があること、に。
 悪い点と言えば、やはりこの体型でしょう。身長が低いので、目線も低くなります。目線が低いとなると、周りを見渡せる範囲が狭まってしまうのです。他にも、歩幅が小さいので歩くのが遅くなったり、力が弱くなっていたり、体力の方もなくなっていたりと不便なことだらけです。
 良い点と言えば、そうですね……一番は、子供といった特性を生かした素直さが出せることでしょうか。思ったことを何でも口に出してしまうことに戸惑いを感じないのです。そして、もう一つは、咲弥のそばで不自然なく見守ることができます。影から見守るのではなく、触れられる距離で見守ることができるのです。願ってもみなかったことでした。
 佐助の手違いであのような事態になったものの、結果としては悪い点よりも良い点の方が勝っています。
 小姓という身でありながら、女性を愛するなど以ての外なのですから――。



 温泉で心身ともに癒して戻ってきてからというもの、彼女は膝を抱え込むようにして座ってこっくりこっくりと船をこいでいた。
 きっと、日々の疲れが温泉によって綺麗さっぱりと流れて行ったのでしょう。
 ――触れたい。
 そんな思いを抱いた私は、彼女を起こしてしまわないように手を伸ばす。
 
「ろくろう……」
「っ! 咲弥、起こしてしまいましたか?」

 返事がない。どうやら寝言のようです。危うく、密かに触れる瞬間を見られるところでした。
 伸ばしていた手を引っ込めて、自らの行為に苦笑する。

「私は何をしているのでしょうか」

 愚か者ですね。
 いくらこの姿を利用して素直さを出せれるとしても、この想いだけは誰にも知られてはならないのです。隠し通さねばならないのです。
 心苦しいものです。
 私の想いが届かなくても構いません。
 永遠に苦しくて辛い思いをしても構いません。
 ですが、咲弥を愛することはお許しください。
 時々でいいので、こうして咲弥と他愛もない会話をしたりすることをお許しください。
 それから――彼女が目を覚ましていない時だけでも、ほんの少しだけ触れることをお許しください。

「まだ、目を覚まさないでくださいね……」

 物音を立てないように注意をして、未だに船をこぐ可愛らしい人の隣に座る。
 すーすー、と響く寝息が気持ち良くて、私にも眠気が襲ってきた。
 気になって横を向けば、頬をほんのりと色付かせ、口をわずかに開けて気持ちよさそうにしている。

「こんな可愛らしい顔をして寝るなんて、反則ですよ」

 溢れる想いが止まらない。
 触れるだけでは物足りない。
 どうやら今の私は、視点が変わると世界が変わったかのように抑制できなくなってしまうんですね。
 貴女を深く愛しすぎてしまったようです。

「咲弥……」

 ――愛しています。とても。
 と、言の葉にする代わりに彼女の額を唇で触れた。

[12/03/05]
今回は六郎視点で。才蔵編に比べて短すぎる。

[終]



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