まじないの花 04.才蔵編
小っちゃい子になったからしてあげないといけないことが結構ある。
当の本人は「触わんじぇねえ!」「子ども扱いすんな!」とか言ってるが、結局は私達チームのところにやって来ては悔しがって「悪ィ、頼む……」とひとこと。
ついさっきは、誰が虫に刺された才蔵の手当てをするかで勝負(じゃんけん)をして、勝った鎌之介が鼻血を出しながら塗り薬を塗ろうとしていた。
負けた伊佐那海と私と横目で見やりながら、鼻先を伸ばしていた。
「あーあ。負けちゃったね、伊佐那海」
「うん。もうっ、悔しい悔しい悔しいっ! アタシがやってあげたかったのに……って、良いこと思いついた!」
伊佐那海が勢いよく立ちあがって、くるりとあっちの人達の方へ体を向ける。
「鎌之介、才蔵ー! 薬を塗る前に、先にお風呂に入ろうよー!」
すると、鎌之介は即座に反応する。
「その案、乗ったー!」
「は? ふざけんな。ってか、その薬だけよこせ。俺は好きな時に入っから」
「才蔵、そんなこと言って一人で入れんの? いーじゃんいーじゃん」
「よくねえ。って、オイ! 抱きかかえんじゃねえー! 鎌之介、鼻血、鼻血っ!」
いやだの一点張りの才蔵を無理矢理抱きかかえた鎌之介。
始めはじたばたと抵抗をしていたが、逃げられないと覚悟したのか暴れるのをやめ、大人しく連れて行かれた。
「何やってんの? さっさと行くぞー!」
***
混浴に入るわけだが、例え子供の姿になっていても本当はいい歳なのでさらけ出さないようにする。
強制的に連れてこられて不機嫌な才蔵のかわいらしい手をつないでいて思う。
「やっぱりココも小さくなってる。可愛い……!」
思ってた通り手が小さかった。このちいさなおててが、あの才蔵なのだ。
つないでいるおてての、あのぷにぷに感がたまらない!
すさまじい破壊力だ。
手の中におさまってしまうんですもの。
私の手は大きい方だけれども、才蔵の手も小さい。手比べをした時なんて、がっちりして、ごつごつしていて、私の関節ひとつ分くらいは大きかったはずなのに。
それだけじゃない。短い手足に四頭身の体。なんだか、守ってあげたくなる。
母性本能にくすぐられる、とはこのことか。
「小せえって言うんじゃねえ。小さくなっちまったんだよ! 仕方ねえだろ」
「うん。そうだね。ごめんね、言い過ぎて。才蔵がかわいすぎてつい言ってしまったけど、嫌なんだよね。ごめんなさい、才蔵……」
そうだよね。才蔵はこのことを気にしてる。あまり言いすぎるのはやめよう。
ごめんなさい。
もう一度告げると、才蔵は大きな吐息をつき、そっと伝える。
「バーカ。んな小さなことで気にするわけねえだろ? 俺は、むしろ……咲弥と一緒にいる時間が増えて嬉しいけどな……」
「え……?」
「んでもねーよ。先、行ってる」
「う、うん」
一歩、二歩と私から遠ざかっていく人に、この鼓動が聞こえませんように。
何度も唱えて、歩を進めようとする。
ふと、思い立ったかのように彼は立ち止まって振り返る。
「今のお前、林檎みてえだぜ?」
自らの頬に指差してクスッと笑い、歩いていった。
先に湯につかっている伊佐那海と鎌之介に「いつまでそこにいる気なのー?」「早く来いよ」と呼んでいるが、私はすぐには行けそうになかった。
湯につかる前に頬が火照っている理由を探さなければいけないから――。
[12/03/04]
久々に才蔵編を書いた気がする。この時代にりんごがあったかなんて聞かないで……
[終]