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 まじないの花 04.六郎編


 六郎に脅された私は、あの後すぐに馬を出し、上田から数里離れた人気の少ない山中にきていた。
 連なる山々に囲まれて大自然の広がるここには、知る人ぞ知る秘湯があるのだ。
 時々、幸村様と一緒に訪ねてはお背中を流してあげたっけ(くれぐれも皆には秘密にだぞ、と言われました)。
 出立する前に幸村様から言われ、今日はその秘湯に連れてきたのです。

「しゃや(咲弥)、泊まる宿はあちらですか? 早く行きましょう」

 ホントだ、宿がやっと見えた。
 道が狭くて、且つ六郎も乗せているから馬を走らせなかった。結構時間がかかったが、日が沈む前に着いてよかった。

「しっかり捕まっていてね、六郎。落ちちゃうから」
「はい」

 山に隠れて沈んでゆく日を背に、私達は宿へと急いだ。


 それにしても、ここはいい宿だ。
 こんな場所にあるから人が大勢はいない。自分以外にいない時だって少なくはない。静かになりたい、一人になりたいときには安らげるところだ。
 私と六郎以外の会話が聞こえないから、今日の客は私達だけ。小さくなった六郎を見られてバレたら大変だから都合がいい。
 宿主さんは常連の幸村様や私のことはよく知っているから、何かと助かる。
 しかも、いつも特別な部屋に入れてくれるのだ。
 もちろん、今日だって、連れられた部屋は特別な部屋だった。

「これは、なんとも風情のある部屋ですね」

 中庭が大きな格子から見え、さらに奥の方には四季折々の山の顔が臨めるのだ。幸村様も綺麗だと絶賛するほどだから。

「では、さっそく温泉に行きましょう。早くしてください。私はもう準備万端です」
「いつのまに浴衣に着替えたの?」
「そんなことよりも、行きましょう。夕飯の時間になってしまいますよ」
「引っ張んなくても、今行くからー!」


 ――そして、六郎が待ちに待っていた時間がやってきました。

「あったかいですね」

 待って。これは……裸と裸の付き合いというものではないか?
 手拭はあるけどこんなのでちゃんと隠せるわけがない。結構透けてる。
 あぁ、ダメっ! いくらお湯が白濁色でも、これは、ダメだ。
 私の心の声は六郎には届かない。

「しゃや? どうかしましたか?」
「あ、いや……えーっと、その……寒いなって」

 ダメだもう。寒くないのに寒いって言ってしまった。むしろ熱いくらいなのに。

「寒いのですか? では、こうしましょう」

 六郎はフッと笑って、易々と私の足の上に座った。抱っこしている状態だ。
 全身に直に伝わる感触は、私に変な感覚を奮い起こさせる。
 目が虚ろになってくる。
 絶対にダメ。大人の六郎ならともかく、子供の六郎になんて。そう思っても、脳は言うことを聞いてくれそうにない。
 限界が来てしまうよ――。

「ろっ、六郎、おりて……」
「おりませんよ。……私を求めているのですか?」

 ちょっ、何言ってるの、六郎?!

「あぁっ、六郎、ばか、やめてっ」
「貴女のやめて、は本当にやめてほしくはないのでしょう?」

 触れられる箇所がくすぐったくて気持ちいい。前にしてもらった時と変わらない。

「だって、気持ちいいけど――笑っちゃうんだもん!」
「なっ……!」
「だって、だって、やっぱり手も小さくなってるってひしひしと伝わってくるんだもん。おかしくって。かわいすぎる!」

 私の肩を叩いてくれる様は、母と子のようで。

「はぁ。かわいい、は聞き飽きました。やめてください。貴女に疲れを癒してもらおうと若にお願いをしてきたというのに」
「え? 六郎が行きたかったんじゃないの?」
「しゃやのためです」

 そう断言する彼が愛くるしくて、思いっきり抱き寄せた。

[12/03/02]
もう少しで裏になるところだった……。次も温泉話です。

[終]



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