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 まじないの花 03.才蔵編


「っだぁぁー! テメエら、いい加減にしろ!!」

 痺れを切らした小さなアイドルは舞台を降りて、一目散に逃げて行った。
 そうです。本日も才蔵は伊佐那海&鎌之介チームにいじられています。そして、私はというと――。

「そっちに行ったぞ! 咲弥!」
「了解ー! 待ちなさい、才蔵!」
「ゲッ、んでお前までアイツらの仲間になってんだよ!」
「咲弥も才蔵のかわいさに気付いて仲間入りしたの! 三人寄れば文殊の知恵ってよく言うじゃない? 今日からアタシ達、強いよ!」
「そーいうことだ。才蔵、待ちやがれ!」

 彼らの仲間となったのです。

「ふざけんな! しゃや(咲弥)、テメエ……覚えとけよ!」

 あっ、消えた?
 今しがた目の前にあった人が。
 三人で消えたところをうろついたり探したりしても、姿かたちが何一つ私達の目に映ることはない。そこで私は確信した。

「やられたね。才蔵は伊賀の忍だから、隠形が得意なんだよ」

 本当は近くにいるのだろうけど、見えないから。これ使われたら探しようがないじゃない。
 才蔵が隠形なんかするから、伊佐那海と鎌之介が落ち込む。

「何よー! 才蔵のバカー! それくらいいいじゃない……」
「才蔵は俺のこと好きじゃないのかよ……」
「ちょっと、才蔵はアタシが好きなの!」
「は? 何言ってんだよ、クソ女。俺のことが好きなんだって!」
「アーターシ!」
「おーれー!」

 落ち込んでいたのに、言い合ってる。
 多分近くで身を潜めている人も、彼らの言い合いにはため息をついただろう。
 私は仲間になったとはいえ、言い合いには参加しないから部屋に戻ることにした。
 ――影が私を追っていることを知らずに。



「あの二人って本当に才蔵のことが好きなんだね」

 いつでも才蔵、才蔵って。
 そう思うと苦しくなった。
 何だろう、この気持ち。イライラする。モヤモヤする。どうしてイライラするんだろう。私が、どうして?
 考えれば考えるほど疑問が増えていって嫌になる。

「わかんないよ……才蔵」

 私は畳の上に寝っころがって目を閉じた。

「呼んだか、しゃや」
「うわっ!?」

 まさか、ここにいるとは思わなかった。ついさっきまで才蔵のことを考えていたから、いきなりの登場にはびっくりして飛び起きてしまった。

「お前、さっき何考えてたんだ?」

 言えるわけがない。あなたのことを考えていました、なんて。
 こんなに考えてしまうってことは、才蔵のことが好きなのかな私。だから、イライラしたりモヤモヤしたりしたのかな。
 一人で納得した私は何でもないよ、とつぶやいた。
 でも、才蔵は満足しないみたいで。

「ふーん。俺のこと考えてたんじゃねえのか?」
「なっ……」
「さっき、才蔵って言ってたろ? バレバレだぜ?」

 どうしよう。図星だ。上手くはぐらかせる自信がない。
 私はとにかく一度ここから逃げようとそろりと後ずさりする。
 しかし、才蔵がそれを許してはくれない。私を一歩たりとも動けなくする呪術を使ったのだ。
 動けないことを確認し、不敵な笑みを漏らす。

「俺はお前が好きだぜ?」

 私の足を開かせてその間に体を入れてくる才蔵はニヤリとまた笑って、次は小声でささやく。

「バーカ。冗談だ」

 デコピンされたのと同時に意識が薄くなってきて、彼が部屋を出た瞬間に消えてしまった。
 出る前に才蔵が何か言っていた気もするが、この状態で分かるはずもなかった。
 

 ――かわいいのはお前の方だろ、咲弥。

[12/02/29]
才蔵編にはよく伊佐那海と鎌之介が出てきます。才蔵ってこんなキャラだったっけ?

[終]



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