久しくあっていないような気持ちすらしているのだ




そして、次の日も向かった先にある寂れたプラットホームにあったベンチにその人は座って、空を見ていた。


「あの、こんにちは。木吉さん」
「……ん?」


僕を見たその視線のなかに、考えるような仕草が浮かぶ。それから、尋ねるように僕へ口を開いた。


「もしかして……黒子テツヤくんか?」
「……はい、」


言うならば、妙な聞き方だった。頷くと、木吉さんは僅かに表情を緩めた。



「ホントだったんだな」
「何がですか?」
「あぁ、いや、こっちの話だよ」


誤魔化すように木吉さんは笑うと、自分の隣へと僕を招いた。立ちっぱなしというのも、アレだから遠慮なく座らせてもらう。部活用のバッグは持ってきていなかったから、場所はとらない。



「木吉さんは、バスケするんですか?」
「前はやってたな。今はちょっと事情があって、やれないんだけどさ」


すみません、と謝ると木吉さんは気にするな、と小さく首を降った。



「黒子は、バスケしてるんだろ?」
「はい、」
「なら、ポジションはどこなんだ?」
「……僕は、特にないんです」


それから、僕の磨いてきた唯一の技能を説明すると、感嘆したように木吉さんは声をあげた。


「パス特化なのか!面白いな」


それから、色々と試合の話をした。キセキの世代についてだったり、いろんな試合についてだ。何故か、紫原くんの話になると複雑そうに顔を歪めたけどそれもすぐに消えた。

話は意外と尽きないもので、ふと気づけば辺りは静かに暗くなってきている。ふと、木吉さんは、僅かに口角を上げた。



「きっと、黒子なら誠凛でもうまくやっていけるんだろうな」
「誠凛……ですか?」
「ああ、今年できたばかりの学校でさ。バスケが強いんだぜ!」


そう言いきった顔は誇らしげであり、僅かに哀愁が漂っている。誠凛、の二文字を頭に刻んだ。志望校はまだ決めていないから、いいかもしれないと思う。そして、木吉さんの浮かべた哀愁に、ほんのすこしだけ興味が湧いた。

ただ、それを聞き出せるほど僕はこの人を知らないのだ。




「あの、また明日」
「……また明日、な」



寂しげなその笑顔のもとが何なのか、僕は知ることができるのだろうか。ただ、今は果てのない道のりのようにも感じられるのだ。

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