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そんなある日、意外な客が釜屋へとやってきた。


「こんにちは、ご無沙汰してます。」

『あ……伊庭君!』


千鶴と庭で掃き掃除をしていると、伊庭君が来て、私と千鶴は顔を見合わせた。


「トシさんに用事があって来ました。取り次いでくれますか?」

「わかりました。少々お待ちください。」


その後、伊庭君を土方さんの部屋に案内してから小半刻ほど経った時……。


「何だと、そいつは本当か!?」

「はい。何でも、急に外せない用事が入ったとのことで。」

「……今日こそは何としても話を聞いてもらわなきゃ、始まらねえ。ちと、出かけてくる。」


土方さんはそう言い残し、足早に部屋を出て行ってしまった。

……本当に、大丈夫なんだろうか。
すごく顔色が悪かったのに。


『あのさ……、一体何があったの?』

「今日、面会する予定の幕臣の方に、約束を反故にされそうになっていたので知らせにきたんです。」


土方さんが、薩長と再び戦う為、幕府の重役の方に連日面談を申し込んでいるという話は、私も聞いている。
でも、その面談の約束を反故にされてしまいそうだということはーー。


『……幕府側は、これ以上の戦いを望んでいないっていうこと?』

「何しろ、総大将の慶喜公が新政府軍に恭順してしまっていますからね。僕も、不用意な行動は慎むようにと上から言われていますし。こういう時は、思うままに行動できるトシさんたちのことが少し羨ましいです。」

『…………』

「それじゃ、僕はそろそろお暇します。皆さん方に、よろしく伝えてください。」

『あっ、うん!何のお構いもできなくてごめんね。』


その後、釜屋を後にした伊庭君と入れ違うように、見慣れた人影が姿を現す。


「汐見君、副長は中にいらっしゃいますか?」

『さっき、出かけたけど……何か用でもあるの?』

「本当ですか?江戸に戻ってきてからというもの、獅子奮迅の働きぶりですね。」

『ええ……。本当に、いつ寝てるのか、不思議に思えるほどね。』


羅刹となった身でも昼間働くなんて、考えられないほどの苦痛を味わっているはずなのに。
土方さんの働きぶりからは、到底、そんな苦しみは窺えない。


『島田君こそ、大丈夫?少し痩せたみたいだけど……』

「ん、まあ……、山崎君が亡くなって、仕事が増えましたからね。彼の置き土産ですから、多少きつくても何とかこなさないと……それに、あれだけ働いてらっしゃる副長を見ていたら、俺一人休むなんて到底できませんよ。」

『そうよね……』


何かしなくちゃ。
その思いは、私も同じだけど……。
私は島田君と違い、土方さんや隊の為にできることなど、幹部隊士として戦うことしかない。
あの日、源さんは言ってた。
自分は刀としては新選組の役に立てないけど、きっと何かできることがあるはずだって。
私が新選組や土方さんの為にできることは、戦う以外果たしてあるのだろうか。
源さんや山崎君が亡くなってから考え続けてきたことだけど……。
まだ、答えは見つからない。


「それじゃ、俺は他にも用事があるので、出かけてきます。」

『うん、行ってらっしゃい。』

「そうそう、最近、辻斬りが増えているらしいですからね。夜の外出は、控えてください。」

『ええ……』


島田君は大きな身体を揺らしながら、歩いていってしまった。


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