四話 ……いた! 平助と一君だ。 『平助!一君!』 呼びかけながら二人の元に駆け寄る。 二人はどこか複雑そうな顔で振り返った。 「ははっ……やっぱつかまっちまったか。」 『もしかして、迷惑……だった?』 「……んなことないって。オレも、ちゃんと話したいって思ってたからさ。」 『……ありがとう。』 「……やはり来たか。話があるなら、早く済ませてくれ。」 『あ、うん……』 一君、冷た……。 『あの、さ……二人はどうして新選組を離れることにしたの?』 「理由かぁ……、んーー」 平助は少し困ったような顔で、頬を掻く。 「……伊東さんは同じ流派の先輩だし、昔から知ってるしさ。あの人が新選組に入ったのは、オレが誘ったのがきっかけだったんだし。だから、一緒に行動する義務があるんじゃねえかなって……そう思ったんだよ。」 ……平助はとても優しい人だから、伊東さんを見放せないんだと思う。 『でも、そのために皆と離れて……このまま会えなくなるかもしれないのよ?』 「いきなり分派って言われて、オレもちょっと動揺してるところはあるんだけどさ……けどオレ、元々、幕府に尽くしたいって思ってるわけじゃねえし。例の薬のこととか、色々考えると……伊東さんが言う御陵衛士のほうが合ってる気がするんだ。」 『…………』 言葉を失ってしまう私に対して、平助は戸惑い混じりに続けた。 「オレだって、本当は皆とずっと馬鹿騒ぎしてたかったさ……だって、江戸にいた頃から今まで、ずっと一緒だったもんな。」 彼の瞳は、どこか遠くを見つめていた。 ……その横顔はとても寂しそうだけど、もう心の整理はつけたというような表情。 『……一君は、どうして?』 救いを求めるような心地で、私は一君に水を向ける。 「自らの志に合うと感じて、伊東派に属することを決めた。」 『一君も、尊王攘夷派なの……?』 「征夷大将軍というのは本来、夷狄を排する為にある役職。外夷を払うという本分を忘れた幕府に、尽くす道理はあるまい。」 『……近藤さんや土方さんの考えは、間違ってるって言うの?』 「そうだ。」 『間違ってるから……別れても……もう会えなくなってもいいの?』 「それもやむを得んだろう。己の志を貫く為には、情などに頓着するべきではない。」 『…………』 二人の話を聞いて、私は……。 『やっぱり……新選組に残ってもらうってのは無理なの?こう思ってるのはさ、私だけじゃないと思う。皆だって、平助と一君とずっと一緒にいたいって思ってるはずよ。』 言わないだけで、思っているのだ。 だって、江戸からずっと一緒だった仲間なんだもん。 二人の気持ちはわかるけど……、それでも、説得せずにはいられなかった。 今なら、まだ間に合う。 今、思いとどまってくれれば、皆が離ればなれにならなくて済む筈。 『お願い。平助、一君。』 「……言わないでくれって。オレたちだって、昨日今日決めたわけじゃねえんだからさ。」 「話はそれだけか?ならば、俺はもう行かせてもらう。」 『本当にいいのね?いつか私たちと、戦う日がくるかもしれないのに……』 「言ったはずだ。志の前では、情など無用なものだと。」 『そう……』 ……一君の決意は固いらしく、私の説得はなんの効果もなかったみたい。 去って行く彼の後ろ姿を見送ることなく、私は地面を見つめた。 『…………』 「強いよなぁ、一君は。」 平助は一君の背中を眩しそうに見つめる。 『……平助も、一君と同じ気持ちなの?私たちと戦うことになっても仕方ないって、全部割り切れるの……?』 「オレは……そういうのは……」 平助は小さく唇を噛んで、俯いた。 自分の気持ちをうまく言葉にできず、もどかしく思っているのが窺える。 けど、やがて……。 「……なあ、ちょっと中庭のほうに行ってみないか?」 出てきたのは、答えとはまったく別の話だった。 でも、答えを口にすることを避けている感じじゃない。 この続きは場所を変えて……、そう言っているみたいだった。 『うん、わかった。付き合うよ。』 |