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狙われた二人



あれからあたしとはじめちゃんは香山さんが入れられていた棚の中を見ていた。
しゃがみ込むあたしたちの上から美雪と空が覗き込む。
棚の隅には土が少量の塊で残っていた。
はじめちゃんがそれを指で拭いとる。



「どうしたの?」
「これ見てみろよ」



上から美雪と空がはじめちゃんの手元を覗き込んだ。



「泥···?」
「ああ。犯人は香山さんを外で殺したのに、わざわざここまで運んできて詰め込んだんだ」



するとあたしたちの後ろで紙を見ていた九条さんが顔を上げた。



「食料は全てあります。持ち出されたものはありませんね」
『そう。それで、ジェイソンが脱獄した刑務所はここからどれくらいあるんですか?』
「そうだなぁ···刑務所は金谷を下ったあたりだから20キロってところですかね」
『その途中に民家とか食料品店は?』
「ないと思いますよ、途中には」



九条さんから視線を前に戻してあたしは『変だなぁ』と呟いた。
すぐさま反応した美雪が「何が?」と問いかける。



『いや···ジェイソンが香山さんを殺したのが今日の明け方だとして、脱走してから少なくとも20時間は経っていた』
「それが?」
「奴は永遠と歩いてきたのに腹は減ってなかったのかな」
「そう言われれば···」
「ジェイソンは人間じゃなくて、バケモンなのか?」



あたしははじめちゃんのその言葉を聞いて、立ち上がった。


みんなを連れてロッジの外に出る。



「逃げ道を探すって、周りは地塊なんです。地図もなしに入っていくのは危険すぎますよ」
『迎えが来るまでここでじっとしてるよりはマシでしょ』
「危険すぎる。俺はごめんだ」
『まぁいいですよ。その代わりひとりになったところを狙われて襲われてもいいならね?あたしたちは責任とれませんよ』



冷たい声のあたしにみんなが黙り込むのを横目に見て、あたしが歩き出すと慌ててみんなもついて来た。
聖子さんと小林さんはいつきさんと一緒に待っているみたいだ。

山道を歩きながら中間まで来ると道が二手に分かれていた。



「二手に分かれるしかないな」
『じゃああたしあっち行くよ』



右の方を指差すと、はじめちゃんも「俺も行く」と言ってくれた。
はじめちゃんに頷き返すと、先輩が「じゃあ、こっちへ」と美雪と空の手を引っ張って左の方へ行った。



「あ、ゆづちゃん···っ」
「柚葉···」



先輩に手を引かれ、此方を振り返る美雪と空を黙って見送る。


まぁ、先輩が一緒なら大丈夫でしょ。


あたしたちは右の道へと進んだ。
危ないという理由ではじめちゃんが手を引きながら先頭を歩いてくれている。

ふと、嫌な予感が体中を巡った瞬間。



「「きゃあああああ!!!」」



聞き覚えのある声で悲鳴が聞こえた。
あたしたちはすぐさま足を止める。



「美雪と武内の声だ!!」



あたしたちは顔を見合わせると、すぐさま美雪たちの向かった方へと走って向かった。

でこぼこした道を走って進むと、足から血を流して倒れている空と美雪を抱きかかえている先輩の姿が見えた。



「美雪!武内!」
『美雪!空!』

「あー動かさないで。私は医者だ」



駆け寄ろうとしたあたしとはじめちゃんを抑えて甲田さんはポケットからハンカチを取り出した。



「ハンカチを持ってないかね?」
『あ、あたしあります』



短パンのポケットから桃色のハンカチを取り出して甲田さんに渡す。
すぐさま応急措置に入る甲田さんを見ながら、あたしたちは何とも言えない気持ちでその様子を見つめた。





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