脱出不可能 結局あたしが折れて空と寝ることになり、しかも空がしがみついた状態で寝たためよく眠れなかったあたしは迎えに来たはじめちゃんと美雪と一緒に私服に着替えてメインロッジへと向かった。 良く眠れなかったあたしの機嫌はあまり良くない。 あんなしがみついた状態で寝られたらいくら相手が女でも寝られないっつーの。 欠伸を噛み殺しながらワイワイと美雪と話す空を睨みつける。 ったく、本当に呑気なやつ。 それからみんなとメインロッジの前で合流すると、中は荒れ放題だった。 ラジカセは壊れているわ、椅子は破壊されているわ、カーテンはボロボロだわ、九条さんはまさかの出来事に悲鳴を上げている。 「誰がこんなことを」 先頭にいたあたしとはじめちゃんは中の惨状を見つめた。 一気に眠気が吹っ飛んだわ···。 九条さんがキッチンに行ったのを見てあたしと美雪とはじめちゃんと空も追いかける。 キッチンもひどい荒れようで、あたしたちは思わずキッチンの入り口で足を止めた。 その時、シンクの向かい側にある棚から真っ赤なハンカチが出てるのに気付いてあたしはそれを取り上げた。 すると追いかけた来たみんなの中からそれを見た聖子さんが「これ!」とハンカチを取り上げる。 あたしはそれを見て、ゆっくりと棚を開けた。 中からは出て来たのは顔がズタズタに潰された香山さんの死体で。 「きゃあっ!?」 「あなた···!」 「九条さん、警察に電話!」 空があたしの背中にしがみつくと気を失った聖子さんを甲田さんが受け止めて、九条さんがすぐに電話に走る。 みんなが広間に集まる。 九条さんは必死に電話を掛けようとしているが、 「ねぇ、電話線切れてない?」 電話線を持ち上げる空に九条さんがそんなっと顔を青褪めた。 「ジェイソンだ。ジェイソンに殺されたんだ」 「ジェイソンって?」 「昨日ニュースで言ってた脱獄囚だよ。遠丸武人。通称ジェイソン。10年前、世間を震え上がらせた殺人鬼だ」 「その男がここにやってきたのか···」 甲田さんがそう呟くといつきさんはふっと笑った。 「取材をしたからよく知ってる。遠丸武人。暗くて、恋人はもちろん、友達すらいない寂しい男だった。彼はその原因が醜い自分の顔のせいだと、顔にガソリンをかけて火をつけた」 マジかよ。 「命は取りとめたが、顔は焼け爛れ二目と見られないほど醜くなってた。そしてある日突然、仲介場に現れたかと思うと、そこにいた村人13人全員を斧で殴り殺したんだ。取材にいったとき俺は見たよ。ジェイソンに斧で顔をズタズタに刻まれた死体をな。あのオッサンの死体にそっくりだったぜ!」 キッチンで死んでいる香山さんを指差してそう言った。 その時、外から爆発音が聞こえてきて、あたしとはじめちゃんは急いでロッジの外に出た。 「まさか···!」 『はじめちゃん!』 はじめちゃんに呼びかけて急いで橋の方へと走る。 みんなも後を追いかけて来た。 吊り橋の元へ行くと、見事に橋は爆発で燃え尽きていた。 「この橋がこっから脱出する唯一のルートだったんですよぉ!」 「どういうことよ!?」 あたしの隣にいたはじめちゃんがしゃがみ込んで爆発物の線を持ち上げる。 「爆破されたのは此方からだ。つまり······」 「ジェイソンが谷のこっち側にいるってことか!?」 「えぇ!?」 あたしたちはそれからロッジへと戻ってきた。 すぐに聖子さんが声を上げる。 「これからどうすんのよ!!あんたツアーの責任者でしょ!?なんとかしてよ!」 「いや、ダメなんですよ。此方から連絡しない限り、ツアーが終わるまで誰もやってこない事になってるんです」 「それじゃ···!あと4日もここで···?」 「嘘···」 あたしの隣にいた美雪と空が呟く。 「また殺されたらあんた責任とれんのね!?」 「そんなこと言われても···」 「こんなときによく絵なんか描けるわね!!」 九条さんに掴みかかっていた聖子さんはソファに座って絵を描いている小林さんに視線を向けると、その手からスケッチブックを取り上げて床に叩き付けた。 そのスケッチブックには香山さんの死体の絵が描かれていて、聖子さんは「きゃあ!」と目を手で覆った。 「小林星二。10年前に日本画壇を騒がせた天才画家。ところがこいつは、何故か3年前を境に死体の絵しか描かなくなっちまった。あまりにも生々しい絵に今じゃ本当に人を殺してるんじゃないかって噂だ」 いつきさんはスケッチブックを拾い上げるとそれをあたしたちに見せつけた。 聖子さんが小林さんの胸倉に掴みかかる。 「あんたね、あの人を殺したのは!はっきり言いなさいよ!あんたがやったんでしょ!?」 小さな声で否定をする小林さんに掴みかかる聖子さんをはじめちゃんとふたりがかりで止めていると、いつきさんがあっはっは!と笑い声を上げた。 「こいつは愉快だ。迎えが来るまでの4日間、俺たちはジェイソンの檻ん中ってわけだ!」 NEXT TOP |