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ロッジでの出来事



ロッジへと着いたその夜。
あたしたちは「乾杯!」という九条さんに対して渡されたジュースの入ったコップをカンッと合わせる。
だが、ノリの悪い大人たちはさっさと自分の好きなように行動していた。
香山夫妻はさっそく料理を取りにいき、甲田さんは窓際のソファに座り、その近くの椅子に煙草を吸いながらビール片手に座るいつきさん、そしてソファに座って絵を描く小林さん。
あたしはそれらを横目に見ながらジュースを飲んでいた。
美雪と空とはじめちゃんは料理を取りにいっている。



「鈴蘭君」
『すいません、先輩。ありがとうございます!』



デザートの乗ったお皿を持った先輩が此方に来て片方を渡してくれた。
お礼を言って受け取るあたしに先輩が学校の人の話をしだして。
あたしがそれに頷きながら話している後ろでは、あたしに料理を持ってきてくれたらしいはじめちゃんが先輩に先を越されたのを見かねて拗ねてソファで一人で食べていた。
それを見ていた美雪と空が苦笑している。



「はじめちゃん拗ねないの」
「拗ねてねえ」
「拗ねてるじゃない」



三人の会話にあたしが振り返って首を傾げると、一人離れた場所のソファに座る小林さんにビールを持ちながら九条さんが話しかけていた。



「小林さん、何を描いてらっしゃるんですか?」
「ま、まだ途中だ」



そう言ってスケッチブックを見せないようにする小林さん。
そんな彼を振り返ったいつきさんが立ち上がって彼に近寄った。



「小林さん、画家なんですか?」
「まぁ···」



曖昧な返事をする小林さんの隣にいつきさんが腰掛ける。



「あんた、小林画伯じゃん。あぁそうだ!俺、あのフリーライターのいつき陽介です。あんたに会えるなんて光栄ですよ」



嬉しそうにしながら名刺を渡すいつきさん。
そんな彼らの背後から甲田さんが声をかける。



「あのぉ···画家の方ですか?よかったら、見せていただけませんかね?」
「いや、食事中はやめた方がいいと思うよ。ねぇ、小林さん」


《番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします》



急に聞こえてきた声にあたしたちは視線を向けた。



《本日未明、長野県佐伯市の刑務所から死刑囚が脱獄しました》



はじめちゃんと美雪と空の近くにあるラジオから流れる放送。
それにいつきさんは「このすぐ近くだぞ」と言った。
あたしはいつきさんの言葉にジュースを飲みながらラジオに視線を向ける。



《死刑囚の名前は遠丸武人。35歳。10年前、北海道大津村の住人13名を殺害した凶悪犯です》



立ち上がった美雪と空があたしのすぐ近くへとやって来た。
ぎゅっと服を握るふたりに視線をチラリと向けながら耳を傾ける。
ちなみにラジオの近くにいるはじめちゃんはむすっとした顔で料理を食べ続けている。



《警察では緊急配備をして、捜しておりますが、現在の所···》


「なんだ」



あたしの隣にいた先輩はラジオに近寄って電源を切った。



「殺人犯が脱走なんて···」
「もしかしたらもうその辺まで来てたりして」



そんないつきさんの言葉にみんなが窓の外を見る。



「柚葉···」



こんなことが初めてな空は怯えまくりだ。
あたしは空の手を握ると、窓の外に見える森の中を睨みつけた。


それから夕飯の時間は過ぎ。



「それじゃあ、みなさん。今日はどうもこれで」



九条さんがロッジの前で頭をさげる。
大人組はさっさと自分のロッジへと足を進めた。
その遥か後ろをあたしたち四人が歩く。



「鈴蘭君!おやすみ!」
『おやすみなさい!』



手を振る先輩にあたしも声を上げて答えた。
それからあたしの隣を無言で歩くはじめちゃんを見る。



『遠野先輩ってね、女子生徒のアイドルだったんだよ。サッカー部のキャプテンだし、県大会でも優勝したって話』



だが、はじめちゃんはあたしに見向きもしないままトコトコと先を歩いていく。
あたしはそれに首を傾げて『どうしたの?はじめちゃん!』と声をかけるが、彼は力なく後ろ手に手を振っただけだった。



「ゆづちゃん、あれははじめちゃんが可哀相よ?」
『え』



横を通り過ぎるときにそう言う美雪。



「ほら、行きましょう?」



美雪の言葉に固まったあたしの手を引っ張って空はロッジへと足を進めた。


はじめちゃんたちと別れてあたしたちのロッジへと着いて寝る準備をしようとした時。
パックをしていた空がパックをはずしながら此方を振り返った。



「ねぇ、柚葉」
『ん?』



布団に入ろうとする体勢で動きを止めて空を見る。



「·········」



何も言わない空にあたしはハハーンとニヤリと笑った。



『怖いの?』



さっきのラジオのやつの事を気にしているのだろう。
ちょっとからかってやろうと悪どい笑みを浮かべたまま口を開こうとすると、空は無言のままあたしに近寄って来て、あたしのベッドに潜り込んできた。



『は···?ちょ、自分のベッドで寝ろってば!』
「だって怖いんだもの!」
『だからって自分のベッドで寝ろよ!隣なんだから!!』
「ひどい!柚葉は私を見捨てるの!?」
『見捨てるって何!?』
「いいじゃない、一晩くらい!!」
『お前、絶対一晩じゃないだろ!!』



空との攻防戦は夜中まで続いた。





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