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高所恐怖症



しばらくすると橋が見えてきた。
橋の上に一歩乗って九条さんが振り返る。



「すいませーん、今のところロッジへ行くのはこの吊り橋しかないんですよ」



頷きながら平然と渡る彼の後ろを香山夫妻が歩く。
ちなみに奥さんの聖子さんは恐々とした足取りで、綱を掴むと「きゃあああ!」と悲鳴を上げた。
どうやら下に流れる川と吊り橋の高さに悲鳴を上げたらしい。

綱をしっかりと握りながら渡るみんなに後を追うように足がすくみながら吊り橋を渡っているとつい下を見てしまい足を止めた。
前を行く美雪と空と先輩とはじめちゃんが吊り橋の中間の少し先で足を止めてあたしを振り返る。
ここに来るまで最後尾にいたはじめちゃんには先に行ってもらっていたのだ。



「来ないのか?鈴蘭君」
「柚葉···?」



首を傾げる先輩と空に、美雪が「あっ!」と口を押えながら声を上げた。



「ゆづちゃん、高所恐怖症だっけ···」
「そういえば···」



顔を見合わす幼なじみふたりに、あたしは青褪めながら首が千切れるくらい縦に振った。


下を見なければいけるかなと思ったけど、無理か···。


するとふたりの言葉を聞いた空がニヤリと微笑んだ。
あたしがその微笑みに思わず冷や汗を流した瞬間、彼女は他の人たちが橋を渡りきったのを確認すると、先輩と美雪とはじめちゃんに綱をしっかりつかんでいるように言ってから───

思い切り綱を引っ張って吊り橋を揺らした。



『いやあああああ!!!やめてえええ!!揺らさないでぇぇぇ!!』



この世の終わりかと思うくらいに悲鳴を上げるあたしにツアー客の人たちも驚きで振り返った。
ゆさゆさと揺れる橋に、あたしは両側の綱を必死で掴みながらその場にしゃがみ込む。



『やめてええええええ!!』



この行動の張本人の空は楽しそうに笑いながら揺らしている。


あいつ···顧問に絶対言ってやる···!


内心憎しみを抱きながらしゃがみ込んでいると、目の前に手が出された。
見上げるとはじめちゃんで。
彼は綱に掴まりながらあたしに手を差し伸べていた。
どうやら持っていた荷物は一時的に先輩に預けたみたいだ。



「掴まってろよ。あっちまで引っ張ってやるからさ」
『はじめちゃん···!』



あたしは感激に声をあげた。
いつの間にか揺れは止まっていて、空はしっかりと美雪に抑え込まれていた。


いやぁ、良き幼なじみを持つといいね!


それからあたしははじめちゃんにしがみ付きながら吊り橋を渡った。
勿論、渡り終わった瞬間空の頭にゲンコツを落としたのは言うまでもない。





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