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体を起こして肩を回していると、青田坊と黒田坊が「リクオ様!!」と此方を驚いたように目を見開いて見ていたリクオに詰め寄る。顔、近いな。



「我々と……“盃”を交わして下さい!!」
「え…!?」
「我々がリクオ様に仕えているのは…もともとは盃を交わした総大将の任命だったからです!!いわば今…リクオ様と拙僧達には何の契りもない!!」



はっきり言うな、黒田坊のやつ。てか、誰も私の心配してくれないんだ。


思わず目を細めて皆を見ていると鴆が「肩、大丈夫か?」と声をかけてくれた。なんて優しいんだ!!



「でも…これまでお側にいたからこそわかるのです…」
「つらら」
「リクオ様は…人も妖怪も護って下さるお方…」
「そんな器のでけえあなただから…オレたちの総大将にふさわしいと思えるんです。だから苦境の時こそ!!」
「“盃”を交わして今の・・リクオ様についていきたい!!」



口々にそう言う青田坊たちを私はフッと笑いながら襖に寄りかかって見つめる。そんな青田坊たちにリクオはまだ困惑した表情で口を開く。



「でも……ボクは……四国が来てからみんなに迷惑かけっぱなしだし…」
「だから我々と一緒に戦いましょう!!オレたちを使ってくれりゃーいーんです!!」
「みんな…」



何処か申し訳なさそうなリクオは私へと視線を向ける。それを受けて私はフッと笑みを浮かべて襖に寄りかかりながら腕を組む。



『こんだけ言ってるんだし、甘えちゃいなさいよ、リクオ』



私のその言葉に決心がついたのかリクオはこくりと頷いた。



「リクオ様、我々と七分三分の盃を………」



その光景を見て私は隣にいた鴆に庭に本家の妖怪達を集めるよう、指示を出した。


まずはリクオと青田坊。私は二人の間より少し後ろに座り、リクオが持っている盃に酒を注ぐ。本当はこれは私のやる事ではないのだが、青田坊たちが「姫様とも!」というので七分三分をやらない代わりに酒を注ぐ役を買って出た。


さすがに七分三分は若頭のリクオがやるべきだろうしね。


妖怪任侠世界において盃とは種族の異なる妖怪同士が血盟的連帯を結ぶものである。祖父の代あるいは父の代でこの組の百鬼となった猛者たちと───あるいはその子孫と…義兄弟の盃を交わすときーその割合から五分五分の盃といい対等な立場となる。


だがこの時、妖怪たちは七分三分の盃を望んだ。それはー忠誠を誓うという親分乾分の盃───


真の信頼がなければできぬ契り───


順番に進んでいき首無がリクオから受け取った盃を飲もうとした時、彼は口を開いた。



「リクオ様。どのようなリクオ様でも私たちは受け入れます。信じてついて来たこの家の…“宝”なんですから。自分に正直に…生きて下さい」



そして首無の後の氷麗がその酒を飲み干すと私は氷麗と入れ違いに彼の目の前に座った。私のその行動に目を見開く面々を無視して目の前のリクオを見つめる。



『リクオは私との七分三分なんて望んでないでしょう?』



そう問いかけるとこくりと頷くリクオ。ほんっと正直だな。



『だからね、これは許婚としての誓いにするわ。───今まで私は君の側を決して離れないと言った。けどそれは所詮は口約束に過ぎない。だから、許婚としての盃を交わしましょう』
「許婚として…?」



別に許婚だと承諾した覚えはないのだが、リクオが前の総会でそう言ってしまったので仕方ない。それに今にとってはありがたい。


不思議そうに首を傾げるリクオに頷いてリクオの盃に酒を注ぐ。



『どうせ君は私と対等になりたいとか隣に立ちたいとか思ってるんでしょ?でもね、私は守られるだけは嫌。せっかく金狐の力があるんだもの。それで君を───いや、貴方を守りたい』



微笑んでそう告げた私に目を見開いて驚くリクオ。後ろの方で氷麗たちが期待の眼差しで此方を見ているのがわかる。というかそういう視線が背中に突き刺さっている。ちょっとやめてくれないかな…。



『だから……まだリクオとはそういうのには早いけど…』



神酒もないし、盃は一つしかないけど。



『三々九度を交わしましょ』



私のその言葉にリクオがさらに目を見開くと、後ろの方で小さく歓声が上がった。そんな後ろの状況など置いといて私はニコリとリクオに微笑んだ。



『どうする?決めるのは───リクオよ』



その言葉にリクオは目を伏せると、覚悟を決めたような目で私を見つめた。



「それをやるからには───ボクは一生神夜を離すつもりはないけど」
『あら…学校で「オレだけの女だ」と言っていた人は誰?』



ニィッと口角を吊り上げてそう言うとリクオはクスクスと笑って真剣な顔で私に向かって頷いた。それに微笑み返して頷く。


リクオが酒を三回に分けて飲む様子をじっと見つめる。


夫婦の誓いと言われている三々九度。本当はもっと長いんだけど、今回はお互い三回だけ。だって盃、一つしかないし。まあ、結婚するわけじゃないんだしいいか。


リクオが三回に分けて酒を飲むと今度はそれが私に回って来た。


じっとリクオと見つめ合いながら私は酒を飲む。待って、見つめ合って飲むの恥ずかしい。とまあそんな事を言ってる場合ではない。


私が二口目に突入した所で桜が部屋の中に入ってきた。それと同時に目の前から妖気を感じる。


え───


驚いて目を見開くと私が三口目を飲もうとしていた盃の上にヒラリと桜が落ちた。顔を上げると目の前には夜のリクオの姿。



『リクオ───』



突然の変化に驚いていると、リクオが不思議そうに首を傾げた。



「どうした。盃…交わさねぇのかい」



こいつ、絶対三々九度をやったから嬉しいんだ。顔が嬉しそうに輝いてる。



『わかってるわよ!』



悔し気にそう呟いてぐいっと残りの酒を飲み干すと、リクオが私の右頬へと手を添えた。



「これで完全にあんたはオレのモンだな。この誓い…違えるなよ」
『当たり前でしょ。私が言い出したんだから』



ジト目で目の前のリクオを睨みつけると、彼はククッと喉を鳴らして本当に嬉しそうに目を細めて手を当てている頬とは逆の頬にキスをした。


頬に当たる柔らかい感触に驚いて目を見開いていると後ろの方で「おぉ!」と歓声が上がった。うぜぇ、マジうぜぇ。


離れていくリクオの顔に私は顔を真っ赤にして頬に手を当てると彼はニィッ…と不敵に微笑んだ。



「よろしくたのむぜ、神夜」



顔を真っ赤にしてリクオを見つめる私とそんな私を嬉しそうに見つめるリクオ。そんな私たちに、後ろの方で青田坊たちが「若…!!」「ついにですね…!!」と喜びの声を上げた。


すると庭の方がザワついた。



「四国の奴らと思わしき軍勢が道楽街道をこちらに向かってくる!!」
「なななんだって!?」
「敵襲ーー!敵襲ーー!」
「こりゃ本格的にやべぇ」
「そんな…いきなり!?逃げるぞ!」



きたか、四国妖怪。


するとリクオは私の手を引いて立ち上がると、氷麗たちを率いて庭の方の襖へと近づく。そして私が彼の隣に並んだのを確認してリクオは私と目を合わせると目の前の襖をバンと思い切り開いた。


その音に振り返る本家の妖怪達。リクオは縁側に出て、祢々切丸を支えにして口を開いた。



「競競としてんじゃねぇ。相手はただの化け狸だろーが」



そんな彼にザワッとなる妖怪達。



「リクオ様じゃ」
「夜のお姿じゃ」
「隣にかぐや姫もいるぞ!」



騒ぐ妖怪達を懐から出した扇を広げて口許を覆いながら見つめる。


すると隣にいたリクオが端の方で様子を見ていた猩影の名前を呼んだ。



「猩影」
「え?」



突然呼ばれて不思議そうに声を上げる猩影を横目で見つめる。



「テメェの親父の仇だ。化け狸の皮はお前が剥げ」



その雰囲気に呑まれた猩影はゾクッと体に何かが走る感覚と共に「ハ…ハイ…」と頷いた。その様子を見ながら私は扇の下で口許をゆるりと持ち上げる。


そう、それでいい…。昼のリクオだけ見てる奴にはわからない…今のリクオを見せてこそ貴方の“畏”は完成する!!


そしてリクオは私の腰を抱き寄せると、その場にいた皆に「行くぞ」と声をかけて街へと繰り出した。リクオから滲み出る“畏”。それに本家にいた妖怪達(一ツ目達以外)がリクオについて来た。



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