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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

大掃除



ホーディの映像は魚人島全域に流れていた。


《魚人島リュウグウ王国国民に───伝えたい事がある───。───この国は一度······崩壊する!!!───そして生まれ変わる···!!!新しい王はおれだ!!!


映像を見上げながらティアナは腕を組み、カナは腰に手をあてる。眉を寄せることなくただじっとホーディの言葉を聞いていた。


《人間との“友好”を望む者はこの国から消えろ!!!───直に「魚人街」から新しい住民達・・・・・・がここへ移住して来る······!!!共に人間達を嫌い······共にこの島の変改を望んでいる。お前達は見たハズだ。大好きなオトヒメ王妃の“死”を!!!人間を信じ、笑顔で歩み寄っても人間はまたお前達を裏切るだろう!!!なぜそれがわからねェ!!!》


ホーディの言葉を「海の森」にいるルフィたちやジンベエたちは静かに聞いている。


《お前達はネプチューン一族に唆され、死へ続く道を歩かされているだけだ!!目を覚ませ!!》


「目を覚ますのはお前だよ」ボソリと呟いたカナの隣でティアナは組んだ腕をぎゅっと握った。しらほしが涙をこぼしながら「·········そんな·········」と呟く。ジンベエは厳しい目つきで映像に映るホーディを見上げ、ナミやサンジ、ルフィなども静かにホーディを見上げていた。


《これを見ろ······!!》


ティアナとカナは呆れたように目を合わせていたが、ホーディの言葉に画面へと視線を向けた。その目が大きく見開かれる。
画面にはケガを負い、鎖で縛られて身動きが取れないネプチューンが映っていた。ルフィたちだけでなく国民全員に衝撃が走る。


《かつての“大騎士”ネプチューンも齢をとった···!!》

「お父様!!」


しらほしが悲鳴をあげる。そんな中、ナミが神妙な顔で画面を見ているのに気付いてティアナは『どうしたの?』と問いかけた。


「あの王様が捕まってる原因は···私達にあるっていうか···ゾロにあるっていうか···
「『何してんの???』」
「何をして来たんじゃお前達っ!!」

「で···で、でも親分さん!勘違いでナミちん達を襲ったのはネプチューン軍の人達で······!!」


ナミの言葉に白けた目を向けるカナとティアナと目を飛び出させてえー!?と驚くジンベエ。そんな彼にケイミーはナミたちは悪くないと説明する。


《旧リュウグウ王国との決別の時だ───3時間後ギョンコルド広場にてこの無能な王の首を切り落とす!!!》

「!!!」


あまりの宣告にしらほしが手で口を覆う。ティアナとカナはチラリと彼女を見上げてただ静かにその桜色と紫色の瞳を画面に映るホーディへと向けた。

彼は10年前にオトヒメ王妃が命懸けで手に入れた“天竜人の書状”を破棄し、箱に入っている人間達と手を取り合おうとしている者達の名が乗ったリストをホーディの作る新しい王国に反発する者たちとし、“裏切り者”リストと名付けた。彼は一人一人処分していくとまで言った。


《───そして最後に海賊“麦わらの一味”!!》

「!」

《これを見ろ!!》


どんっ!!と画面に映ったのは天井から吊り下げられている檻の中に閉じ込められている三人の仲間───ゾロ、ウソップ、ブルックの姿。


《この島のどこかでモニターを見てるだろう···!!魚人族の“怒り”アーロン一味の野望を砕いた人間達よォ!!!》

「ゾロ〜〜!!ウソップ!!ブルック!!」


ハチの治療をしながら画面を見ていたチョッパーが目を見開いた。


「何をやってんだアイツら···」
「···············!!」
「ありゃーー!!捕まってる!!」
『アホ···』
「マジ何やってんの···」


煙草を吹かすサンジに驚くナミ、声を上げるルフィに思わず目を細めて呟くティアナとカナ。
ホーディは国王の処刑が終わる頃に三人が捕まっている部屋は水でいっぱいになって死んでしまうだろうと言う。画面に映るウソップたちはギャーワーと叫んでいた。


《懸賞金4億ベリー“麦わらのルフィ”!!!お前達の首は地上の人間達への見せしめにちょうどいい!!!》

「······」

《そして滅竜魔導士ドラゴンスレイヤーと名高い“舞姫のティアナ”と”炎竜のカナ”。特別な力を持つお前達はおれの国に特別に加えてやってもいい。あの海賊女帝をもオトしたというその容姿、おれの国の王妃にピッタリだ。ぜひ出迎えてやろう》

『は······』
「「あ゛?」」
「「「「はああああァァァ!!?」」」」


ルフィの手配書をドン!!と見せながら言うホーディの姿を見てティアナとカナはチラリと目を合わせた───が、その後に続く言葉と出された自分たちの手配書に目を丸くした。最後の“おれの国の王妃”という言葉にルフィの瞳の奥が熱く燃え上がり、カナやナミたちの顔が厳しくなる。

ウチの大事な歌姫たちを───しかも船長の大事な人を王妃にそえるなど言語道断だ。そんなの許すはずがないし、まず船長が誰にもゆずらないだろう。あいつ、自分が何を言ったのかわかっているのか。

この時点で麦わらの一味に火が点いたのは確かだろう。


《───さァ!!旧リュウグウ王国の大掃除を始めるぞ!!!3時間後、この国はプライドある魚人島に生まれ変わる!!!》


高らかに宣言した後画面はプツッと切れた。しーんと目を閉じて動かなくなった映像電伝虫。海の森は静寂に包まれたのだが───


「おい、ティアナ見たか?おれの懸賞金4億だって!!!いつ上がったんだ〜〜?」
「ねえ、カナの見た〜?2億って書いてなかった?いつの間にか上がってたんだけど〜!!」
「それ所じゃないでしょ!!」
『え、てかあたしも上がってたじゃん。3億だったよ、3億』

「明らかにケンカ売られてんなァ。ティアナちゃんとカナちゃんのことも含めて」


でれでれと顔を緩めて頭を掻くルフィとカナに厳しくナミがパンッ!!とツッコミをいれ、ティアナもさりげなく指摘する。だが、サンジの言葉にルフィとカナとナミの顔が変わった。


「そうよ!あいつ、ティアナを王妃にするなんて······!!」
「なんだあいつ。えらそうに!!人の相棒王妃にするとかナメてんの?燃やすぞマジ!!!」
「ティアナは誰にもやらねー!!おれの女だ!!!」
『ていうか海賊女帝をオトしたとか言ってなかった?誰かそこツッコんでよ』


いやそこもツッコむ所なのだろうが、ナミたちは完全にティアナ一人に絞っているがカナも一応勧誘はされているのだ。ちゃんとそこも忘れるな。

ティアナに抱き着いてぎゃぎゃいと騒ぐナミ、ルフィ、カナをティアナは無理矢理剥がすことはしなかった。いつもならカナはすぐに引きはがされるのだが、今回はカナも狙われているということでティアナなりに警戒をしているのだろう。

ジンベエはわいわいぎゃあぎゃあとうるさい彼らを放置して静かに口を開いた。こいつらに構っていると色々と長くなる。


「戦争でお前さんたち、一気に有名になった······3億を超えたらそうそう上がるもんじゃないんじゃがのぅ」
「え、カナまだ2億だよ。まだまだ上がるな···」
『言ってる場合かよ。』


ティアナを離さんとばかりに抱き着いていたナミたちが離れてティアナは多少体重がかかり重かった肩をグルグルと回しながらカナにツッコミをいれた。


「───でもまァ、売られたケンカは買うだけだ!!」
「ティアナの件もあるしな!!」
『だからアンタも入ってるって』
「おい待てルフィ君!!カナ君!!」


パンッ!!と右手に左手の拳を打ちつけて向かおうとするやる気満々のルフィとカナを止めたのはジンベエだった。


「お父様が·········メガロ!!!」
「シャ〜〜!!!」
「助けに行かなきゃ!!」
「待ちなさい!!しらほし姫!!止まれメガロ!!!」


メガロに乗って向かおうとするしらほしを止めるジンベエ。


「ジンベエ親分様······でも!!」
「ルフィ君もカナ君も姫様も···三人共ちょっと待て······!!」
『はいはい、動かないでね〜』


止めるジンベエの気持ちもわかるので、ティアナは水を操ってこれ以上動かないようにメガロを“水竜”で囲み、ルフィの腕をガッチリと掴む。

ティアナは話を聞かずに突き進もうとするカナの足元に魔力で瞬時に水を張り凍らせる。それに気付かず氷の上を踏んだカナはツルッと滑ってしまい後頭部から地面へと倒れた。ガンッと痛々しい音が響く。


「いってェェェ〜!!ちょっとこれ、大丈夫?頭割れてない?大丈夫だよね!?」
『いつも通りおかしいから気にすんなよ』
「え···?」



あまりのティアナの言葉にカナは痛む頭を押さえて痛みに悶えながら目を丸くして彼女を見上げた。

その様子を見ながらハチも行かない方がいいと言う。「カナの心配もしてほしい」と呟くカナにナミが「あんたなら大丈夫よ」と投げやりに答えた。

ホーディが今のリュウグウ王国で最も恐れているのはしらほしの“才能”だ。この先ホーディがどれだけ理想的な魚人島を作っても「海王類」を操り攻めて来られたらひとたまりもない。


「国王はその攻撃の盾にする為の“人質”だ······!!」


ホーディはしらほし自身を捕まえ、その力を利用しようとは思っていない。その力の存在を恐れているからだ。───だからしらほしの命を狙えるバンダー・デッケンと手を組んだ。厄介なものは全部消すのがホーディなのだ。


「───けれどわたくし···“力”の話は聞いていますが······───まだ海王類とお話させて頂いた事はございません·········!!本当にその様な力があるのかどうかもまだ······!!」
「───そうか。では、その話はホーディに伝わらん様にせねば······恐れて貰うのは結構な事じゃ」
「サメ!!じゃ、おれを竜宮城まで!!サンジ!“よわむし”の事頼むぞ!!」
「待てルフィ君!!」


話は終わったとばかりに両手を挙げてメガロに言うルフィはサンジとハイタッチを交わした。すでにティアナはルフィの腕から手を離している。カナは痛みはだいぶ引いたがそれでもまだ痛いので頭を押さえながら立ちあがってティアナの隣へと立った。

ジンベエはそんなルフィを止める。


「お前さんらはホーディと戦ってはいかん!!」
「「おれ達が···“人間”だからか?」」
「お前らが言うとなんか話こじれるわ!!」



ジンベエの言葉に答えるチョッパーとフランキーにサンジはツッコミをいれた。確かに人間トナカイとサイボーグに言われたら話がこじれる。


「そうじゃ···また魚人の残党が“人間”を恨む···ここはわしに任せてくれ!!」


だがそんな言葉を素直に聞くルフィではない。


「ジンベエ!!こっちは仲間取られてんだ!!ホーディっての放っときゃ、おれの友達もみんな困ってる。ティアナも狙われてんだ。おれは行く!!止めてェんなら······!!止めてみろ!!!」


「ルフィ!!」と誰かが止めるように彼の名前を呼ぶ。


「───共に闘った仲だと油断したわい···そういやお前さん···あの男・・・の弟じゃった。止まる気がないんなら···仕方ない・・・・のう······!!!」


一触即発の二人に、ティアナとカナは顔を見合わせて呆れたように溜息を吐いた。


『男って···』
「す〜ぐ、喧嘩に持ってくんだから···」