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かたじけない



フィッシャー・タイガーの最後、オトヒメ王妃の願い。
ジンベエから語られた出来事を、ティアナ達は信じられない面持ちで聞いていた。


"一緒に“タイヨウ”の······夢を見ましょう·········!!!”


フカボシのその言葉がティアナには深く響いて、目を細めた。


「───その後10年······“フカボシ”“リュウボシ”“マンボシ”───3人の王子を筆頭に······王や姫もモニターで呼びかけ······その努力で再び国民の署名は大きく集まっておる···!!───これがここ16年程のこの島の差別との戦い·········───そして“魚人海賊団”の成り立ちじゃ···」


ティアナはジンベエの話を聞きながらチラリと足元に目を向けた。
鼻ちょうちんを掻いて寝ているルフィとティアナの足に寄りかかって寝ているカナ。ティアナはスッ···とカナが寄りかかっている方の足を後ろに下げた。勿論寄りかかるものがなくなったカナは後ろに倒れ込み、ガンッ!!と頭を打つ。


いっでええええ!!!ティアナ!?なんで足退かすの!?もっと優しい起こし方できない?!?!」
『うわっ、涎すご···』
「え!!!嘘!?」
『嘘。』
「············。お前さあ···」


額に怒りマークが浮かんでいるように眉をピクピクと動かすカナに、ティアナはべーっと舌を出して見せた。そんな二人を放ってジンベエは話を続ける。


「お前さんの故郷を苦しめたというアーロンは···」
「·········」
「───つまり、わしの弟分なんじゃ···!!責任を感じとる!!」


ティアナとカナは視線を合わせた。


「何かあればどこにでもわしらが飛んで行くつもりじゃったが、アーロンは近くの海軍を買収し「海軍本部」に情報が届かん様に手を回しておった···」
「用意周到だな」
『カナとは大違い』
「てめー···」
「よォし腹を切れ貴様ァ!!!それでも許すわけじゃねェが、ちったァナミさんの気も紛れらァ!!!」


ジンベエの話に口を挟んだカナの言葉にティアナがふっと鼻で笑いながら言えば、カナは彼女を睨んだ。そんなやりとりをする二人の隣でサンジがジンベエを指差しながら怒鳴る。

「やめてサンジ君!!」そんな彼を止めたのはナミだった。「全くこの人に悪意はなかったじゃない」

ナミの言葉に思わずティアナとカナが笑みを浮かべるが、それとは反対にどこか納得がいかないサンジは「しかしだなナミさん」と言う。


「なんなりと処分は受ける!!!」
「やめて!私が嫌いなのはアーロン!」


深々と頭を下げるジンベエにナミは手を出してそれをやめさせた。いつの間にかルフィの傍にあった鱗の岩に移動して座っているティアナの隣にナミも座る。カナはその近くで眠そうに欠伸を溢しながら立っていた。


「───とにかくあんたがアーロン一味の黒幕じゃなくてよかった······───だって、ルフィとティアナとカナの友達なんでしょ?」


確認するようにナミが視線を送ってきて、ティアナとカナは頷いた。


「確かにアーロン一味にはひどい目にあわされたけど···そんなひどい渦の中出会った仲間もいるのよね!」
「ナミさん、それおれのことじゃない?」
「ナミが腕組んでんのティアナだけどね。」
「全部繋がって私ができてんの!!魚人だからって恨みはしないわ」


ナミの言葉に途中途中口を挟むサンジとカナ。
ティアナはそんな二人とナミの言葉を聞きながら自身の腕に抱き着くナミのオレンジの髪を撫でた。
水の魔法を使うだけあって人より体温が低いティアナの心地良い手のひらにナミは目を細めて猫のように擦り寄った。ジンベエはナミの言葉にただ目を見開く。


「───だから私の人生に勝手に謝らないで!!捨てたもんじゃないのよ?今楽しいもん」


「カッコイイ〜、ナミ」ヒュ〜ッと口笛を吹くカナに、ティアナとケイミーも微笑みを浮かべ、ハチは泣いていた。ジンベエも顔を俯かせて震える。


「······何ちゅうもったいない言葉·········!!」


震えるその声に、ナミは目を見開いた。


「かたじけない···!!!」


涙をぼろぼろとこぼすジンベエに、ナミは思わずティアナと顔を見合わせた。


「うお〜〜う、わかるぜアニキの辛ェ立場!!おめェは男だジンベエ!!!タイガーもよう···オトシメもようゥ!!おれァ大好きだぜ魚人族〜〜〜!!!」
「うっせーフランキーてめェ!!」
『てかオトシメじゃなくてオト"ヒ"メね』
「間違うなよ、そこ」


うおおおお!!と泣きながら叫ぶフランキーに鋭くサンジとティアナがツッコミを入れ、カナが白けた目でフランキーを見る。そんな彼らの隣でナミは俯いて涙を流すジンベエの姿に、困ったような笑みを浮かべた。


(············!!そんなに苦しんでたんだ···)

『カッコいいじゃん、ナミ』


その時、膝に頬杖をついたティアナがからかうような笑みでナミを見てきて───ナミは恥ずかしそうにバシッと彼女を叩いた。


「───で、おめェはいつまで寝てんだよ!!!」
「ぶぼッ」


サンジは寝ているルフィの顔面に容赦なく蹴りを入れた。その衝撃によって目を覚ましたルフィを見て、ティアナは『カナ、あの起こし方に比べればまだいい方じゃん』とカナに小声で言っていた。

「全然良くねえよ!!ルフィは顔面、カナは後頭部!!どっちも悲惨な起こされ方だよ!!!」『いや、うるせえ。』噛みつくように吠えるカナに、ティアナは鬱陶しそうに耳を塞いだ。


「···ん?······ああ·········!!ティアナ、おはよう!」
『はい、おはよう』
「───で、ジンベエ!!弱虫の母ちゃんが捕まえた強盗はどうなった?」
「お前ほぼ寝てたろ!!!オープニングだよそれ!!!」
「あ、カナもそこから聞きたい」
『なんか初めの方から静かだと思ったんだよなあ···』


オープニングの方から話を聞いていなかったルフィとカナにサンジとティアナはツッコミをいれた。そんなわいわいとしている麦わらの一味の隣で、ナミがしらほしを見上げる。


「あんたしらほしって言うの?」
「!」
「お前海王類と友達なのかー!?」
「ナ······ナミちん!!チョッパーちん!!王女様だよ」


気軽にしらほし、なんて呼び捨てにするナミやまるで友達に話しかけるような口調でしらほしを見上げるチョッパーにケイミーは慌てて声をかける。───が、そんなのこの一味には関係ない。
しらほしはナミとチョッパーからの声かけに涙を拭いながら返事をした。


「······はいっ······あっ···!!申し訳ございませんっ。お母様の事思い出してしまって涙が······!!」
「立派なお母さんだったのね」
「!······はいっ!!」


ティアナはカナたちとぎゃあぎゃあと騒ぎながらもナミたちの話をしっかりと聞いていた。チラリと横目で彼女たちの様子を見る。


「ナミちん様、初めてお会い致しますのに·········!!何だかほっと致しますね」
「あ!人魚姫様、“ナミちん”はあだ名で」
「そお?境遇が少し似てるからかな···」


ティアナはしらほしとナミの様子を見て、ふっと笑みを浮かべた。


(いつもの調子に戻ったな···)

「ティアナ、何笑ってんの?怖いんだけど」
『うっせーな。剥ぐぞ。
「何を!!?」


それから色々と収拾がついたティアナ達は気を取り直して最初の話に戻ることにした。


「───では、すまん···時間を取った···。竜宮城におる者を確認するが······ホーディとその一味が攻めて来て、国王と兵士が捕らわれ······お前さんらの仲間達が4人動向不明」


仲間達───ブルック、ゾロ、ウソップ、パッパグの事だ。


「今ある情報はここまで···」


ジンベエが状況確認をする中、しらほしの手のひらに乗って楽しそうに話をしているナミをティアナはチラリと見てから「ニュ〜···ジンベエさん···」とジンベエを呼ぶハチを振り返った。


「ホーディの計画通りなら今頃国中もっとひどい事になってるハズだぞ······」
「そうか、ハチ!お前魚人街におったのならホーディの計画を知っとるのか······!?あの男···軍を出た後、魚人街で何か企んでおるとふんどったが、わしの前では決してしっぽを出さなんだ」
「ああ············知ってる」


「ティアナ〜」名前を呼ばれたティアナが顔を向ければナミがこちらに手を伸ばしていて、しらほしの手のひらから降りるのだと察したティアナは手助けする為に彼女から伸ばされた手を取った。お姫様が馬車から降りるように手を貸してやって、ゆっくりと自分の隣へとナミを降ろす。

「ありがとう」『いいえ〜、お姫様』本物のお姫様にするように綺麗にお辞儀をして見せるティアナにナミはクスクスと笑った。しらほしはその様子をうわあ···っと目を輝かせながら見ており、それに気付いたカナが話を聞けとばかりにティアナの肘を小突く。

ハチは言った。
ホーディはアーロンを超える程の“人間嫌い”。魚人族の恨みと怒りだけを食って育った様な男。だけどホーディには明らかにアーロンと違う所があった。アーロンは人間を蔑むけど同族の魚人には手を上げない“種族主義者”。───だが、ホーディは人間と仲良くしようとする魚人にまでも容赦なく手をかけるのだ。


「───今年は4年に一度の「世界会議レヴェリー」が開かれる年だろ···。署名もたくさん集まって······!!今回いよいよネプチューン王が世界に対して「魚人島移住」の意志を伝えに行く予定だ···」
「······それを阻止するのが狙いか!!」
「ニュ〜···いや······阻止だけじゃ終わらねェ······」


ハチの妙な言い方にティアナはカナと視線を交えた。その時、チョッパーが「わーーーー!!!」と大声を上げる。みんながその声に振り返ってチョッパーの視線の先を追えば。


「森からでっけー電伝虫!!」


木々の隙間から現れたのは大きな電伝虫だった。
「でっか···」『本当だ···』カナとティアナもその大きさに驚いていれば、電伝虫を見たデンがフランキーの隣で声を上げた。


「映像電伝虫だ。モニターが作動するぞ」
「『モニター?』」


すると映像電伝虫が映し出した場所に帽子をかぶった大柄の男が映った。ザザッと耳障りな音が映像電伝虫から聞こえて、思わずティアナとカナは「『うるさっ』」と耳を塞ぐ。


「あ!!あいつだわっ!!」


だが映像に映った男をナミが指差したので、すぐに耳から手を外して映像を仰ぎ見た。


《あ〜···全魚人島民───······聞こえるか?······おれは···魚人街の「新魚人海賊団」船長······》

「ホーディ!!!」


え、あれが···?とジンベエの叫び声にティアナとカナはホーディを見上げた。ティアナの隣に移動してきたルフィも無言で映像電伝虫のホーディを見上げる。


《ホーディ・ジョーンズだ···!!!》