運命に負けない
月明りのもと、〈麦わらのルフィ〉と〈金獅子のシキ〉は対峙した。
ビリーにまたがったルフィと、『フワフワの実』の能力者の戦いは、かつてない三次元の空中戦闘となった。
ちりばめられた星の空と、漆黒の塗りこめた海の狭間で。
しかし、あくまで翼の揚力で飛ぶ鳥のビリーと、空中であっても全身後退が自由自在なシキでは、その機動力に次元のちがう差があった。たとえれば戦闘機とUFOが戦うようなものだ。シキの“飛ぶ斬撃”で狙い撃ちされて、ビリーは逃げまわるという状態がつづいていた。
「うォおおおおっ!」
ルフィのパンチが反撃する。ゴムゴムパンチの長い射程が機動力の差を埋めた。
ふき飛ばされたシキは岩礁に激突した。だが、その巨岩を砕いて、即座に戦闘に復帰する。
きわめて接近したメルヴィユの島々のあいだをすりぬけて、空中戦はつづいた。
「!?」
戦闘の只中に巨大な翼が割りこんだ。
古代鳥だ。ビリーを獲物と思い、襲いかかってきたのだ。牙の並んだ嘴と爪を、ビリーがかろうじてやりすごす。
「“炎竜の咆哮”!」
ふいに聞こえたカナの声と、目の前を通り過ぎる炎のブレス。その炎はジュラドリを吹き飛ばした。
「カナ!」
王宮の中から走りながら攻撃を放ったカナの姿が見えた。カナはルフィをチラリと見て、うなずく。他の敵は任せてシキに集中しろと目で訴えてきたカナに、ルフィはうなずきかえした。
その直後、ふいをついたシキが、ビリーごとルフィを蹴り落とした。
岩塊を二つ三つ貫いたところで、キズだらけになりながら、エレキ鳥はルフィを背負って踏みとどまる。
「ビリー、だいじょうぶか!?」
ルフィの呼びかけに、ビリーはクォ〜と鳴き、平気だと答えた。
しかしゴム人間のルフィはともかく、生身のビリーが、あのシキの攻撃にいつまでも耐えられるものではない。
いったん間合いを取って、体勢を立てなおす。王宮の島の側面にへばりついた、海のへりに沿って上昇していく。
ザバッ───
海水の壁を破って、いきなり波飛沫が上がった。
現れたのは
青鯨だ。その尾びれがおこした波に、叩きつけられたルフィとビリーは、ふたたび挙動を乱した。
「そろそろ決着のとき······“斬波”!」
シキの義足刀から“飛ぶ斬撃”がくり出された。
斬ったのは、海だ。
丸いケーキのへりをカットしたように、海の一部が、ばっさりと断たれた。
膨大な海水の塊は浮力をうしない、波飛沫となってルフィとビリーに降りかかった。
「うわ〜〜〜!?」
泡をくったふたりは、必死で躱そうとする。
ところが波飛沫は、ピタリと重力を無視して空中静止した。
そして、ふたたび一つの塊になると、ルフィとビリーは水のなかに閉じこめられた。
「ジハハハハ······!勝負あったな、小僧!」
シキは会心の笑みを浮かべた。
空にあっても海水は海水だ。『悪魔の実』の能力者は、海に落ちれば力を奪われ、たちまち溺れてしまう。このまま放っておけば、あの麦わらはくたばるだろう。
そのとき、シキが懐に入れた小電伝虫が鳴った。
《───航海士チームよりシキ様へ!島を、東にそらせてください!嵐が来ます!》
司令室の航海士チームから、シキに緊急連絡が入った。
「嵐だと······?」
シキは、あたりを見遣った。
月が照らす夜空に、それらしい雲はない。
メルヴィユの針路を決めるのは、帆でもなく舵でもなく、島を浮かせているシキの意志だった。
ともかくシキは、雲のない東の方向に針路を変えた。
***
「───こ······これで、いいんですか······?」
シキ配下の航海士は、通信を切ると、冷や汗をかきながらいった。
航海士と副船長の左右には、パチンコをひきしぼった長鼻の狙撃手と、恐ろしい顔をした人間トナカイがいた。
司令室の航海士チームは、全員、ティアナに倒されていた。戦闘員は外に出払い、ここにいたのは科学者ばかりだった。ティアナはシキ配下の航海士の周りに浮かせていたいくつもの水の塊を、パチンッと指を鳴らして消していく。
「······いいんだよな、ナミ?」
「ええ、これでいい」
ナミがウソップに応えた。
島を、東にむける。サイクロンがやってくる東の方角に。
「でも、だいじょうぶなのか?嵐のなかに突っこんで······」
『だいじょうぶじゃないでしょ〜』
ナミはドレスを破って、動きやすいミニスカートに変えた。
それから彼女の武器───
天候棒をかまえて、覚悟を決め、仁王立ちになった。
「でも、こうするしかないの······!」