×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


頼もしくて愛おしい背中


その頃、ティアナはシキと対峙していた。
ニヒルと笑いながら自分を見るシキにティアナはただ無表情で視線を鋭くして、魔力を徐々に高めていく。冷気が体から溢れた。


「まさか自分から来るとは思わなかったなァ。ベィビーちゃ〜ん」
『······うるせェな。』


いつもより低い声と絶対零度の視線がシキに突き刺さる。

まさかシキと対峙するとは思ってなかった。ルフィが倒すって言ってたけど、相手しちゃっていいのかな。


「ちょうどいい。可愛がってやるよ」
『喋んな。』


こいつがナミを───大切な親友を傷つけたのだ。許しはしない。

ティアナは魔力制御のためのピアスを片耳だけ外すと、魔力を右手に集中させた。水の渦がティアナの右手を覆う。


「ジハハハハ!いつまでその強気がつづくかな?べィビーちゃ〜ん?」
『喋んなっていったのが聞こえなかった?おっさん』


シキが義足刀を振るって飛ぶ斬撃を繰り出した。


『“水竜の鉄拳”!』


シキの技とティアナの拳がぶつかり合い、途方もない衝撃波が周囲に散漫した。
技同士のぶつかりで起きた衝撃波がやり止んだ時、大きな振動がおとずれた。
振り返ったティアナとシキの目に、大量の怪物たちが王宮に乗り込んでくるのが見えた。チッと舌打ちをしたシキがチラリとティアナを一瞥する。


「あとでたっぷり可愛がってやるよ、べィビーちゃん」
『逃がすか!······“水孤竜すいこりゅう”!』


水の翼を広げたティアナがシキに追いすがる。その彼女を振り返ったシキが斬撃をお見舞いした。とっさに水の翼で防ごうとしたティアナの脇を通り抜けて、王宮の門へとそれは命中した。

自分ではない他の誰かを狙った攻撃。


『なっ!?』
「「ひぃいい〜〜〜!シキ······!」」


聞こえた声に目を向けると、ウソップとナミを抱えたチョッパーがいた。
避難したはずのふたりがそこにいたのだ。


『ウソップ!チョッパー!』


声をかけると、ティアナに気付いたふたりが助けを求めるように目に涙をためて叫んだ。


「「ティアナ〜〜〜!!」」
「やってくれたな、小娘······よっぽど死にたいらしい」


シキは怒り心頭だった。こうなってしまっては、もはや、その女を消し去り、きれいさっぱり汚辱をそそいで、歌姫だけを手に入れるしかない。


「「ひぃいいいいいい!!」」


ふたりは悲鳴の第二段を盛大にハモった。
〈金獅子のシキ〉の背後に、巨大なライオンのシルエットが姿を現した。
土塊から練り上げられた獅子が、地面から立ち上がると、シキの意のままに襲いかかった。


「“獅子威し・御所地巻き”!」


汚れた雪を巻き上げて、地面が、津波となって襲いかかった。


「うわァ〜!!」
「ティアナちゃ〜んッ!!」
『くそっ!』


ティアナは最速でふたりの前に飛んで、ナミたちを庇うように前に降り立った。


『“水竜の水の盾ウォーター・シールド”!』


そして今できる最大の水の盾を張る。


「絶望のうちに死ね!」


造りものの獅子が顎を開き、四人を呑み込もうとしたとき───衝撃波が、その土塊の頭部を一撃でふっ飛ばした。


「んっ!?」


異変を察したシキの視界は、雪煙にさえぎられている。
空を切るパンチの連打が、獅子を、たちまちもとの土塊に変えた。


JET銃乱打ジェットガトリング


両脚をゴムポンプにすることで、一時的に脈拍を上げ、血流を増して身体能力を格段に上げる、“ギア2セカンド”───その状態でのゴムパンチの連打は、目でとらえることすらできず、拳の先はときに音速となる。

心臓が破れるほどの血流の圧力も、血管に至るまでゴムの性質を備えた能力者であれば、耐えることができた。それでも体にかかる負担は想像を絶し、多用すれば命を縮めかねない諸刃の技だった。

ウソップとチョッパーとティアナは、彼らの頼もしい船長を仰いだ。


「「『ルフィ!』」」


すでに戦闘態勢。
顔は紅潮し、“ギア2”による極度の高体温のせいで水蒸気を上げている。
双眸に映ったのは、一度は敗れた、その男のみ。


「まだ、あがくか」


シキは嗤った。

何度挑もうと、自分には勝てるわけがないと。


「ティアナ、無事か。」


ルフィからの言葉に、ティアナは"水の盾ウォーター・シールド"を消して、無意識のうちに頬をゆるめながらコクンッとうなずいた。


「ナミ······あいつをぶっ飛ばして、みんなで帰るぞ」


麦わら帽子の少年は、彼の航海士にいった。
わずかに意識を取りもどしたナミが、苦しそうな笑顔をかえした。しかし、すぐに気をうしなってしまう。


「ここはまかせろ。ナミを頼む」
「わかった!」
「がんばれ、ルフィ!」


ウソップとチョッパーは、ナミを抱えて、その場から避難した。


「ティアナ、おまえも行け」


ルフィの背中をしばらく見つめて、ティアナはうなずくとウソップとチョッパーの後を追った。ルフィの耳にシャランッと綺麗な金属音が残る。


「どこに逃げようと、みな殺しの運命に変わりはない。小僧、あの〈舞姫〉もすぐにおれのものになる」


ここがシキの島であるかぎり。
すべての自然法則、物理法則さえ、彼の、悪魔の能力の上に成り立っていた。これほどの絶対領土があるだろうか。

ゆえに、そこを侵す者を、シキは決して許しはしない。認めはしない。


「バカかおまえェ。やらねェって言っただろ」


だがしかし、支配者を気取る老人に対する、少年の回答は明快だった。
排気音エグゾースト───膝を折り、脚のポンプを圧縮する。肉体から噴き出す蒸気はいっそう勢いを増した。

それは感情を超えた、ルフィの闘志そのものだった。


「おれたちの運命を、おまえが決めんな!」


火花が散る。溜めこんだエネルギーを一点爆発させる。


ドウッ!


見えないパンチとおなじ速度で、全身を肉弾と化したルフィは、一瞬で、はるか上空にいたシキの懐に入った。


「!?」
「“ピストル”!」


胸を痛打され、シキは後方にふっ飛んだ。
王宮の建物に叩きつけられる直前で、空中でたたらを踏む形でこらえ、とどまる。


「ビリー!力を貸せ!」


重力によって落ちていくままのルフィは、上空を旋回していたエレキ鳥に叫んだ。
ビリーは───迷うことなく急降下して、戦場の只中に飛びこむとルフィをひろい上げた。


東の海イーストブルーには行かせねェ!」


ルフィは追撃する。
口元の血をぬぐったシキは、金の鬣を逆立てて迎え撃った。


「いいぞ······その希望!今、絶望に変えてやる!」



←back|×