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Shoot-'em-up!


シキの王宮を警護する強化兵たちは、襲撃など想定してはいなかったはずだ。こうして縦列を作って前庭に並んでいるのは、親兄弟の契りにあたっての儀礼的なものでしかなかった。

そこは空中群島メルヴィユ。不可侵の領空。
いったい、だれが攻めてくるというのだ。
だが、彼らは知らなかった。世界には、悪魔の実の能力に頼らずとも、空を飛ぶ船があるということを。

強化兵たちが夜空を仰いだとき、すでに奇襲は成功していた。
風来クー・ド・バースト”で飛翔した〈サウザンドサニー号〉は、雪の積もった平原に着地、そのままダフトグリーンの樹林帯を薙ぎ倒して、王宮の前庭に滑りこんだ。


「う······嘘だろ?」
「船で王宮に乗りつけるなんて、どこのどいつだ!?」


突然、降ってわいた船にはじき飛ばされて、部隊の数割は戦闘不能に陥る。強化兵たちは、まだ、それが襲撃だとは信じられず、遅刻してきた海賊のだれかかと思う者も少なくなかった。

マストにたなびく海賊旗ドクロは······。


「!?」


ドレスコードを守って正装した彼らの姿、麦わら帽子の旗印を見たとき、強化兵たちは完全に浮き足立った。



***


杯に、なみなみと酒がつがれて、シキは、いよいよ気分が高揚して芝居がかってきた。
大広間の左右、祝いの膳を前に居並んだ海賊たちを前に、告げる。


「知ってのとおり、東の海イーストブルーは、〈偉大なる航路グランドライン〉をふくめた五つの海で最弱の海······死んで惜しまれる偉人もいねェ。思う存分、暴れるがいい!」


シキは杯を掲げた。

───〈金獅子海賊団〉結成だ!

新たな首領となった伝説の海賊の言葉に、海賊たちは、契り、もし、この杯が絆を断つときは命をもってあがなう覚悟で、忠誠を誓った。
海では、ましてや悪魔の実のチカラで空に浮かぶメルヴィユでは、この約束をたがえることは奈落の底につながっていた。
海賊たちが、杯をふくむ。
それをたしかめて、シキが大杯を口に運ぼうとしたとき、左手の襖があわただしく開け放たれた。


「······てめェ、なんだ。こんなときに」
「申し訳ありません。至急、お耳に入れたいことが!」


広間に駆け込んできた部下は、海賊たちの視線を気にしながら耳打ちした。


「十人······?さっさと討ち取らねェか」


数百人の強化兵が警備しているのだ。侵入者の十人やそこら、たたんでしまえ。つまらないことをいちいち報告しに来た部下を、シキは睨みつけた。


「それが······」


部下が次の言葉を口にする寸前、ギラリと白刃がきらめき、広間の大襖が一刀両断にされた。


「!?」


次いで、その隣の大襖を破ってボコッと足先が飛び出した。しかし今度は、大襖は倒れなかった。


「わっ······」
「それじゃキマらねェだろ······こうすんだ!ウソップ!」


烈風をまとった蹴りが、大襖を、今度こそ破り倒した。


「やつらに······!」


警護にあたっていた数百人の強化兵は、すでに彼らによって全滅させられていた。
広間に現れた、十人の海賊を、シキは睨みつけた。

左からチョッパー、ブルック、ロビン、ティアナ、ゾロ、サンジ、カナ、ウソップ、フランキー───黒いスーツで兵装した〈麦わらの一味〉の面々だった。

みな手持ちの大筒やバズーカなどの重火器で、武装している。
最後に、黒いロングコートを羽織って現れたルフィは、居並ぶ海賊たちを前に、堂々と、メルヴィユの王と対峙した。


「おまえらだったか······!こりゃあ、驚いた······!」


シキは杯をおいた。
〈麦わらの一味〉十人衆は、一列に並ぶと広間を威圧した。


東の海イーストブルーを襲うって······?」
「まァな······」


ルフィの言葉に、シキが答える。
居あわせた海賊たちは、それでも、みないっぱしの船長である。取り乱す者もなく、わずかに腰を浮かせて、宴を邪魔した侵入者を迎え撃つ体勢になる。


「ナミは無事か」


広間のなかほどに進んだところで、ルフィが問い質した。


「あァ、ピンピンしてる」


壁際に控えていたシキの部下たちが下卑た笑いを上げた。
ルフィたちは、むっと表情を厳しくする。


「迎えに行くと言ったが······まさかそっちから来るとはな。〈舞姫のティアナ〉」


不快気な視線を寄越されているティアナは、表情も変えずただ無表情で、シキを睨み返した。


「おれの女にもずいぶん大層な傷をつけてくれたな」
「言っただろ、『奪われたくなければ、しっかり守れ』ってな。じきに歌姫もおれのものになる」


下卑た笑みを浮かべながらティアナを見るシキに、一味の眉がピクリと動いた。ルフィがキッとシキを睨みつける。


「ティアナはおれだけの女だ!!」


力強いルフィの声が広間に響き渡った。


「ジハハハハ······!まァ、いい。物騒なナリしてるが······まさか十人で、これを相手にするつもりじゃあるめェな!」


大広間の左右の襖が、バタバタといっせいに倒された。

控えの間から現れたのは完全武装の海賊たち───その数、五千人。みな、契りの杯を交わした船長たちの舎弟分だった。一階ばかりか二階のバルコニーまで敵であふれかえっていた。


「『·············』」


カナとティアナがチラリと周囲に目を向ける。


「わが身を犠牲にすりゃ、故郷を守れると信じる女と······ともに散りに来た無謀な特攻隊か······!」


五千人の城壁を前にして、シキは余裕綽々だった。
長年、海賊稼業の酸いも甘いも味わってきた彼にとって、ルフィたちの殴りこみは若さ故の無謀にしか映らなかった。
そうやって、つまらぬプライドを守って、いきがって、最後はのたれ死んだ若い命を、この老人は飽きるほど見てきたのだ。


「バカだな、おまえ······」
「!?」


しかし麦わらの海賊は、五千の敵を前にしても、動じない。


「ナミは犠牲になりに来たんじゃねェよ!先陣切って、ここに、戦いに来ただけだ」


それは真実の言葉だった。
ナミは、たったひとりで王宮に乗りこみ、ダフトグリーンに火を放とうとした。シキと戦おうとしたのだ。


「覚悟しろよ、〈金獅子のシキ〉······」


ロングコートをひるがえし、ルフィがバズーカを小脇に抱える。
十人は円陣になり、おのおのが手にした重火器を十方に向けた。
広間の空気は凍てついた。


「···············!」
「おれたちが本隊だ」


戦場の交響曲が轟いた。



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