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コナンと中岡はセンターサークルの中で向かい合って立っていた。


「それで?知史君とはいつ知り合ったの?」


コナンが尋ねると、中岡は目を見張った。「なぜ、オレと知史が······」


「本浦さんが撮ったビデオに映ってたんだ。知史君に合図を交わす中岡さんの姿がね」


コナンが本浦の家で見たビデオには、右手を振る知史の後ろ姿の向こうに、写真を撮る母親や他の親たちの後ろに立って右手の親指をグッと立てている中岡が映っていた。


「知り合ったのは、多分、高校三年生のときだよね?知史君はそのとき小一で、場所は杯戸公園のグラウンド。自主トレしてるときじゃない?」
「おまえ、どうして······!?」


次々と言い当てるコナンに、中岡はただただ驚いた。


「中岡さんが通っていた杯戸高校の寮は杯戸公園のすぐ近くだし、実家は群馬だから寮生活してたと思ったんだ。中岡さん、練習を見ていた知史君に声をかけたんじゃない?昔、中岡さんがカズ選手に声をかけられたように」


コナンの言葉に、中岡は「!!」と大きく目を見開いた。
そして何もかも見通しのコナンに屈服するように「ああ······」とうなずいた。


「······オレと知史が初めて会ったのは、高三の春。おまえの言うとおり、杯戸公園で自主トレしているときだ。生まれつき体が弱くて激しい運動ができない知史は、最初は座ってオレの練習を見ているだけだったが、少しずつオレの練習に付き合うようになって······オレと知史の二人だけの練習は、その年の冬まで続いた。その間、オレは高校選手権を勝ち抜き、国立で決勝ゴールを決めて、知史と祝杯をあげたんだ······」


中岡はコナンに話しながら、知史と祝杯をあげた日のことを思い出した。
あの日。
中岡と知史は、雪の積もった杯戸公園のベンチに並んで腰かけ、缶ココアで乾杯した。
そのとき、中岡は左手首にしていたリストバンドを知史に差し出した。
いつか試合に出て、ゴールを決められるようにと。
受け取った知史は嬉しそうにリストバンドをはめた。
けれど───······。
その先を思い出した中岡はうつむいて目を閉じた。


「······でも、二月に中岡さんがバイクで事故を起こして、知史君との関係が終わってしまったんだね」
「ああ······手術に続く半年間のリハビリもうまくいかず、オレは逃げるように南米へ発った。そして今年の六月、久しぶりに杯戸公園を訪れたとき、知史と再会したんだ」


公園で声をかけたとき、知史は以前と変わらない笑顔で中岡に駆け寄ってきた。
左腕には、中岡があげたリストバンドをつけて───······。


「四年生になった知史は、杯戸町のサッカーチームに入っていた。体が弱いため、試合中もずっとベンチで応援しているだけだったが、監督から次の試合にちょっとだけ出て見るかと言われたと嬉しそうに話してくれた。そんな知史に、オレはシュートのコーチをし、試合を見に行く約束をした。そしてゴールを決めたら、今度はオレンジジュースで祝杯をあげようと約束したんだ」


試合当日。
母親の斜め後ろで中岡が見守る中、知史は懸命に走り、味方がシュートしてゴールキーパーが弾いたこぼれ球をシュートした。
ボールはクロスバーの中央の下端に当たり、そのままネットに飛びこんだ。
あ然としている知史にチームメイトが集まってきて、知史の初ゴールを祝福した。
知史はカメラを構えた母親に笑顔で手を振り、中岡を見た。
中岡も右手の親指を立て、笑顔を返した。


「約束どおり知史は試合でゴールを決めて······あれを見て、オレはもう一度やり直してみようと思ったんだ。ところが───······」


中岡は顔をゆがめ、拳を強く握った。
その拳がわなわなと震えている。


「······それで、毛利のおじさんとサポーターの人たちに復讐しようと思ったんだね?」
「ああ······」
「爆弾はどうやって手に入れたの?」
「南米で知り合ったヤツの中に、その手のプロがいたんだ······」
「その爆弾を九つのスタジアムに仕掛けたんだね。そして、十番目のスタジアムは国立じゃなく、この東都スタジアムだった······」


コナンはスタジアムの中を見回し、再び中岡を見つめた。


「国立に仕掛けたのは、ダミーのセンサーでしょ?国立を外したのは、中岡さんにとって聖地だから。代わりに中岡さんがJリーガーとしてピッチに立ちたいと心から願ったこの東都スタジアムに爆弾を仕掛け、五時五十分に爆発するようセットしたんだ。小五郎のおじさんが暗号を解いてここに来たら、一緒に死ぬつもりでね」


コナンの言葉に、中岡は肯定も否定もすることなく、ただ黙って立っていた。


「この五時五十分って、雪の国立で杯戸高校が日本一になった時刻だよね。だから警告文には『五時五十分』って書かないで『試合が終了した時刻に』って書いたんだ」
「ああ、そうだ······」


中岡はフッと自虐的な笑みを浮かべ、顔を上げた。


「オレにとってサッカーの試合は、あの国立での決勝戦が最後だったから。オレの最後はここかなってな」
「中岡さん······九十分ピッチに立ち続けられない人間にサッカーをやる資格はない───そう言ってスピリッツとの契約を断ったそうだけど、それって間違ってるよ」


「何?」中岡が眉をしかめ、コナンをにらみつける。


「体が弱くて少ししか試合に出られなかった知史君に、サッカーをやる資格はなかったの?」


コナンの言葉に、中岡はハッと目を見開いた。


「十五分しかピッチに立てないなら、それを生かす方法を見つければいいじゃない」
「······おまえのようなガキに何がわかる」
「確かにね。でも本物のJリーガーなら言うはずさ。あなたは本当のサッカーを知らないって」


コナンは厳しい眼差しを中岡に向けながら、サッカー教室でJリーガーたちが言った言葉を思い出した。



「足が遅ければ、他の選手より先に走り出せばいいんだ」

「他人からはマイナスに見えるような個性でも、自分なりに生かせる方法を見つけ出せたら、プラスに生かせることだってたくさんあるんだ」



「それに中岡さん。あなたが知らないことはまだあるよ」


怒りで肩をわなわなさせている中岡に、コナンは小五郎たちが知史を乗せた救急車を止めた本当の理由を話し始めた。


***


国立競技場ではシーズン終了のセレモニーが行われ、サポーターたちは選手に熱いエールと拍手を送り続けていた。
園子も比護選手に向かって大きく手を振り、きゃあきゃあとはしゃいでいる。
汐留アリーナの爆発が阻止できたのか気になっていた蘭は携帯を取り出し、ニュースサイトを見た。
しかし、汐留アリーナに関するニュースは出てなかった。
他のサイトも見てみようとすると、画面に電池切れの表示が出た。


「電池切れか······」


蘭は仕方なく携帯を閉じ、ピッチに目を向けて拍手をした。


***


花恋は蘭たちに用事ができたと言って国立競技場を出ると、灰原に電話をしようと携帯を開いてダイアルを押す。
だが、なかなか電話に出ない灰原に眉をひそめて電話を切ると、今度はコナンにかけようと電話帳を開くと同時に画面が真っ暗になった。
電池切れだ。


『チッ。こんなときに······!!』


大きく舌打ちをした花恋は国立競技場を見上げる。
一瞬頭の中に真田の顔が浮かんだが、それを振り払うように大きく頭を振って頭の中に浮かんだ、爆弾の仕掛けてあるスタジアム。
東都スタジアムに向かって走り出した。


***


「嘘だ───!!」


真実を知った中岡は思わず叫んだ。


「毛利小五郎とサポーターたちが人を助けようとしてたなんて、そんなの嘘だ!」
「嘘じゃない。それが真実なんだよ、中岡さん······」


コナンが中岡をまっすぐ見つめると、中岡はフッと鼻で笑った。


「そんな作り話にだまされっかよ」


そう言って上着のポケットから起爆装置を取り出した。


「よせ!そんなことしたって知史君が悲しむだけだぞ!」
「······悪いが、もう後戻りできねえんだよ」


中岡は起爆装置のフタを開けてボタンを押した。
すると轟音と共に観客席のシートが吹き飛び、黒煙を上げた。
次々と観客席で爆発が起き、コナンが立っているグラウンドにも衝撃が伝わって揺れた。


***


ピッチを囲んだ観客席からはあちこちで煙が上がっていた。


「これで爆弾を止める方法は一つしかなくなった······」


起爆装置を握りしめていた中岡は破壊された観客席を見回すと、片膝をついたコナンに目を向けた。


「電光掲示板を見てみな。今となっちゃ無意味だが······ストライカーへの試練として、これから一分おきに爆破が繰り返される仕掛けになっている」


コナンは電光掲示板を見た。
すると砂嵐が映っていた画面には、カウントダウンを告げる数字が表示されていた。


「そして、最後にコイツが爆発すれば······各所に設置した爆弾が誘爆し、全てが終わる」


中岡はそう言うと、肩にかけていたバッグを下ろした。
中にはタイマーとプラスチック爆弾が見える。


「あの人殺し探偵もサポーターと共に死ぬんだ!」
「何!?おっちゃんとサポーターが死ぬ!?」


コナンが驚いて立ち上がると、中岡はニヤリと笑った。


「小僧。おまえの推理には一つだけ大きな間違いがある」
「───!!まさか、ここじゃないのか!?」
「そう。脅迫状に書かれたスタジアムにここは含まれていない。あの時点では、この東都スタジアムに爆弾を仕掛けていなかった。だから、ここは十番目のスタジアムじゃない。十一番目のスタジアムなんだよ」
「じゃあ、十番目のスタジアムは······」


コナンは言いかけて、ハッと気づいた。「国立競技場······!!」


(そうか!だからゲーム終了後三十五分間は爆弾捜索を禁じるって書いてあったんだ。あれは、国立の爆弾を見つけさせないためだったのか······!)


中岡は不敵な笑みを浮かべながら、コナンの答えにうなずいた。


「国立の爆弾は、このカバンの起爆装置と連動する仕掛けになっている。爆発は、オレが国立でゴールを決めたゲーム終了四分前。人生の全てを賭けた聖地だからこそ、オレの人生の終わりと共に消滅させると決めたんだ」


中岡が言い終わった同時にスタジアムの屋根からドォォ···ン!と爆発音がした。
アーチ型に組まれた鉄骨に沿って次々と爆発が起こり、屋根のパネルが吹き飛んで煙が吹き上がる。
一瞬にして屋根が真っ赤に燃えさかり、巨大な鉄骨がコナンたちのいるセンターサークルをめがけて落ちてきた。


「危ない······!!」


コナンはとっさに後ろに下がった。
しかし、凄まじい轟音と共に鉄骨が地面に激突し、コナンの体は吹き飛ばされた。
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