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「#エロ」のBL小説を読む
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翌朝。
コナンがスケートボードに乗ってどこかへ出かけたのを見送ると花恋は軽い服装にパーカーを腰巻にし、髪をポニーテールに結い上げると走り出した。
しばらく走って見えたのは公園。
そこは真田と蓮華が初めて出会った公園だった。
入り口で深呼吸をしてゆっくりと並木道を歩くと、開けたところで一人の男の人がサッカーの練習をしていた。
懐かしそうに目を細めて花恋がその人を見ていると、顔を上げた男の人とちょうど目が合って「あ······」とお互い声を出した。


「サッカー教室でおった······」
『黒瀬花恋です。真田選手っていつもここで練習してるんですか?』


花恋の質問に真田は「まあな」と笑うと近くのベンチに座りタオルを首にかけるとスポーツドリンクを一口飲んだ。


「オマエこそ、ここで何してんねん」
『いやだから······』

(黒瀬花恋って名前言ったじゃん)


呆れながら花恋は真田の近くによる。


『ちょっとした朝の散歩ですよ······ん?』


真田を見上げようとしたときに膝に見えた傷跡に花恋は眉を顰めると「はぁ···」とため息をついて「ちょっと待っててください」と近くにある水道に走って行った。
その後を真田が不思議そうに見つめていると戻ってきた花恋がハンカチを差し出す。


『膝、擦りむいてますよ』
「ん?おお、気づかんかったわ。すまんな」
『いえ······』

(変わってないなぁ)

「なぁ、ほんまにどっかで会ったことないか?」


ギクッと花恋の体がかすかに揺れたが花恋は「誰かと見間違いじゃ······?」と返した。
それに真田は「うーん······」と悩むとハッとしたように花恋に顔を近づける。
驚いた花恋が一歩下がると真田はじっと花恋の顔を見ながら「黒瀬蓮華······」とつぶやいた。


「知っとるか?」
『え······?』


一瞬自分の正体がバレたかと思った花恋は目を見開いた。


「いや、前にもこんなことがあってな。そんときに知り合った黒瀬蓮華に似とってなぁ······」


思い出しているのか少し頬を染めて花恋が差し出したハンカチを見つめる真田を見て花恋は(あぁ······)と目を細めると、


『蓮華姉ちゃんから聞いてますよ。貴大くんはすごいって』


真っすぐに真田を見て微笑んだ。


「そか······」


嬉しそうに真田は笑うとハッとして急いでスポーツバッグを肩にかけ、立ち上がる。


「もうこんな時間やないか!オレ、練習あるからはよぉ行かなあかんねん!」


「ほなまたな!」と片手を上げて走り出した真田に花恋はクスッと笑うと「はい」と返事をして自分も帰ろうと踵を返した。
すると後ろから「おい!」と声が聞こえ振り返ると、


「それ、やるわ!いいこと聞かせてもろたし。今度の試合、絶対来いよ!!」


ポイッと投げられたのはさっきまで真田がつけていたリストバンドで、花恋は驚きながらもリストバンドをギュッと握りしめて大きく頷いた。


(てゆーか······)

『私、何かいいこと言ったっけ······?』


首をかしげながら花恋は探偵事務所に走り出した。


***


花恋が右腕に真田からもらったリストバンドをつけ、公園から戻ってくると反対側からコナンがスケートボードに乗って帰って来た。
その左腕にはリストバンドがつけられていて花恋は(なるほど······)と仕方なさそうに笑った。
コナンは花恋がいるのに気付くとスケートボードから降りて駆け寄ってきた。


「どこか行ってたのか?」
『まぁ···。ね、そのリストバンドどうしたの?』


花恋がリストバンドを指しながら言うとコナンは嬉しそうに笑って「これか?」と左腕を上げた。


「ある人からもらったんだよ。蓮華こそ、そんなリストバンド持ってたか?」


(どこかで見たことあるような)とコナンが考えていると花恋は「まあね」と曖昧に笑った。
すると前からサイレンを鳴らした二台の覆面パトカーが走ってきて、毛利探偵事務所の前で止まり、目暮、白鳥、佐藤、千葉が出てきた。
険しい表情でビルに入っていく目暮たちを見た二人は、顔を見合わせて駆け出した。


「『高木刑事〜!』」


遅れて車から出てきた高木に「何かあったの?」と声をかけると、高木は前かがみになって二人に顔を近づけた。


「毛利さん宛てに、犯人からメッセージが届いたんだ」
「『え!?』」


二人は驚いて声を上げた。

二人が高木と二階の毛利探偵事務所に入ると、ビニール袋に入ったメッセージカードがテーブルに置かれていた。
目暮と並んでソファに腰かけた白鳥がカードを手に取ってメッセージを読み上げた。


「『毛利探偵へ。あれで終わったと思うな。次は前回よりもっと多くの人たちが、その場で爆発を目のあたりにし、恐怖の時間を共有するはめになるだろう。詳しい指示は後日。では、健闘を祈る』」
「今朝、事務所の郵便受けにメール便が届いていて、それを取り出したらそのカードが······」


蘭が説明すると、目暮は「なるほど······」とテーブルに戻されたカードを見た。


「あの······それって、本当に犯人からなんですか?もしかしてイタズラってことは······」
「いや、おそらく間違いないだろう」


目暮がキッパリと言った。
白鳥もうなずく。


「前回、我々はマスコミに暗号の内容を公表しましたが、犯人が言った最後の言葉は伏せていました」
「最後の言葉?あ······!」


蘭が犯人の電話を思い出すと、隣に座っていた小五郎が「『では、健闘を祈る』か······」と言った。
白鳥がうなずき、


「ええ、そしてこのメッセージの最後も······」


とメッセージカードに書かれた『では、健闘を祈る』の文字を指差した。


「くそ!ふざけやがって!」


小五郎が怒りで肩を震わせている横で、コナンと花恋はメッセージカードに書かれた文字を見つめた。


「でも、今回は暗号なかったね」
「ええ。でもヒントにはなるわ」


佐藤が答えると、白鳥がメッセージの文字を指差した。


「メッセージのこの部分······『次は前回よりもっと多くの人たちが、その場で爆発を目のあたりにし』とあるのは、次はもっと多くの人達が集まる場所に爆弾を仕掛けるという意味だと思います」
「うーむ······前回、東都スタジアムに集まったのは八万人······」


目暮が腕を組んで考え込み、


「ってことは、次は八万人以上が集まる場所に······」
「そんな場所あるかしら······」


高木と佐藤も首をひねった。
ソファの前に立っていた千葉も天井を見上げ考え込み、ふと壁に貼ってあったポスターに気づいた。


「あ!ありました!!」
「「え!?」」
「どこだね千葉君!?」


千葉の声に佐藤と高木が振り返り、目暮が身を乗り出した。


「あれです!あのポスター!」


千葉は小五郎の背後の壁に貼ってあったコンサートのポスターを指差した。


「十二月三日、汐留アリーナで行われる人気若手歌手やグループが出演する、通称十万人コンサート!」

((!?十二月三日······?))


コナンと花恋はコンサートの日にちを聞いてハッとした。
隣の小五郎が青ざめる。


「ちょっと待て!そのコンサートはヨーコちゃんも······」
「はい。沖野ヨーコさんも出演されます」
「出演されますじゃねーだろ!!」


小五郎が身を乗り出して怒鳴ってきて、千葉は「いや、そう言われましても······」と後ずさりした。
小五郎の様子を見て佐藤が考え込む。


「毛利さんと親しい沖野さんが出演するコンサート会場が、次の爆破対象······」
「偶然とは思えませんね」


高木がうなずき、目暮も「うむ······」と考え込む。


「でも、あの五人の中には毛利さんを恨んでいそうな人物は······」


佐藤が言うと、千葉が「あの······」と手を上げ、隅に置いてあったホワイトボードを引っ張り出した。


「毛利さんの恨みとは関係ありませんが、あのコンサートの主催者は、この山森さんが勤務の日売テレビです。当日の夕方には彼がプロデューサーを務める情報番組で一部生放送されることになっているはずです」
「そうか!生放送中に爆発が起これば───」


高木が言うと、千葉は首を縦に振った。「視聴率アップは間違いないです」


「山森か······言われて見ればあの男······」


小五郎はサッカー教室で山森が言った言葉を思い出した。
山森は、スクープをものにして社会部に復帰しようと考えている薫に『まあ、健闘を祈るよ』と言い、ビッグ大阪の真田がスピリッツの赤木に宣戦布告をしたときは『二人とも健闘を祈っているよ!』と言った───。


「なるほど······普段の口癖がつい出てしまった可能性もあるな」


小五郎が山森の言葉を説明すると、目暮はうなずいた。
「あと、この香田さんですが······」と千葉がホワイトボードの顔写真を示す。


「もしかしたら、彼女は個人的に沖野さんを恨んでいるかもしれません」
「なにぃ!?ヨーコちゃんを!?」


小五郎が勢いよく顔を上げて叫ぶ。


「彼女の同僚の話では、ずっとマークしている沖野さんのスクープがガードが固くて一枚もモノにできないとぼやいていたそうです」

((そういえば、あのメモに······))


コナンと花恋は千葉の報告を聞いて、薫の手帳に書かれた『O・Y 十二月三日 汐留アリーナ』の文字を思い出した。


『ねえねえ。私たちさ、サッカー教室のとき、薫さんのメモを見ちゃったんだけど、『O・Y 十二月三日 汐留アリーナ』って書いてあったよ』
「何だって!?」


花恋の発言に目暮たちが目を見張った。


「O・Yってヨーコちゃんのイニシャルでしょ?」


コナンが言うと、小五郎が「コォラァァ!!」と怒鳴って拳を振り上げた。


「なんでそんな大事なこと今まで───」
「ちょ、ちょっとやめてよ、お父さん!」


蘭が慌てて小五郎を止め、高木も「まあまあ毛利さん」となだめた。


「まだ香田さんが犯人と決まったわけじゃないんですから」
「でもこれで、二人の容疑者は復活したわけね」


佐藤がホワイトボードに貼られた山森と香田の顔写真を見つめた。
高木が隣の榊の写真に目を向ける。


「残りの榊さんは、毛利さんにオウンゴールをからかわれたという······」
「オレはからかってなんかいねぇぞ!!」


小五郎がムッとして、高木は「あ、すいません」と肩をすくめた。


「と、とにかく爆破事件の動機としては薄すぎるということで······」
「それは本浦さんも一緒ね。今までの捜査では動機らしきものは何もあがってないわ」


佐藤が言うと、白鳥はうつむいて眉をひそめた。
白鳥の正面に座っていた二人はその様子に気づいた。


((何/だ······?確か、一昨日も目暮警部が本浦さんには動機がないと言ったとき、納得していないようだったけど······))


二人が不思議に思っていると、佐藤が「そうだ、蘭ちゃん」と蘭に目を向けた。


「その犯人からのメッセージカード、いつから郵便受けに入っていたかわかる?」
「少なくとも、昨日の夕方に郵便受けを覗いたときには入っていませんでした」


蘭の答えに、佐藤は「じゃあ入れたのはその後······」と考え込んだ。


「ってことは、中岡さんは犯人じゃありませんね」
「ええ」


高木と佐藤が顔を合わせてうなずく。


『え?』
「どうして?」


コナンと花恋が訊くと、高木が「ああ」と振り返った。


「彼はまだ留置場だからね。今日の午後には釈放されるけど」


「ふーん」二人は納得した。


「ちなみに蘭くん、一緒に入っていたメール便というのは?」


目暮から尋ねられた蘭は立ち上がり、小五郎のデスクからメール便を取ってきた。


「昨夜のうちに届いたようです。差出人から『東京スピリッツサポーター有志一同』で、中には父への感謝のメッセージとネクタイが入っていました」


目暮は蘭からメール便を受け取ると、「ん?」と自分の手を見た。


「あ、すみません。その封筒、何か端からノリがはみ出てたみたいで······」
「ああ、構わんよ」


そう言うと、目暮は封筒の裏表をザッと確認して蘭に返した。


「よし。いずれにしろ、これでJリーグや東京スピリッツへの恨みの線は薄くなったな。もう一度、山森慎三と香田薫を調べなおしだ!」
「「「はい!」」」


佐藤、高木、千葉は返事をして事務所を出ていった。


「くそっ!ヨーコちゃんが······!」


沖野ヨーコの身に危険が迫っているのを知った小五郎は、拳を強く握りしめた。
コナンと花恋は小五郎をチラリと見て、正面の白鳥に顔を向けた。
白鳥は目暮に何やら耳打ちをしていて、話が終わると目暮がうなずいた。
すると白鳥が「では」と立ち上がり、事務所を出て行く。
二人は眉を寄せながら、白鳥の後ろ姿を目で追った───。

夕方。
コナンと花恋は歩美、元太、光彦が遊びにきていた阿笠邸に行き、犯人の予告状のことを話した。


「なるほど······」


阿笠博士はキッチンからヤカンを持ってくると、テーブルに置いたマグカップにお湯を注いだ。


「じゃが、一番ホッとしてるのは、Jリーグの関係者じゃろうな」
「ああ。次もどこかのスタジアムが狙われるんじゃねえかって、戦々恐々だったからな」
「明日と明後日の試合、ギリギリでやることに決まりましたしね!」


光彦が言うと、灰原は「ええ」とうなずいた。


「十二月三日の最終戦も予定通り行うって、さっき大東チェアマンが記者会見してたわ」
「良かった!もしかしたらもうやらないのかなって心配してたんだ」
「そしたら今年はもうJリーグ見られねーもんな」


歩美と元太も嬉しそうに笑った。


「ほーれ、ココアが入ったぞ」


阿笠博士がマグカップを配ると、


「よーし!あっちでゲームやろーぜ!」


元太、光彦、歩美はマグカップを持ってソファに向かった。
コナンと花恋と共にテーブルに残った灰原は、元太たちを見てフッと笑った。


「よかったわね。あの子たち、Jリーグに夢中だから犯人探しに集中できるでしょ」
「『まあね/な······』」


二人は苦笑いして答えると、うつむいて考え込んだ。


「何か引っかかるみたいね」
『うん······問題のコンサートの開催は十二月三日なの』


日付を聞いた灰原がハッとする。


「Jリーグの最終戦と同じ日······!」
「な?引っかかるだろ?それと······」


コナンはポケットから手帳を取り出してテーブルに広げ、書き取った犯人からのメッセージを見せた。



【次は前回よりもっと多くの人たちが、その場で爆発を目のあたりにし、恐怖の時間を共有するはめになるだろう】



「これじゃ警備が厳重になって、犯行がやりにくくなるだけじゃねーか」
「そう言われればそうじゃのぉ······」


コナンたちの前に立っていた阿笠博士も首をかしげる。


『そんな厳重警備の中でも犯人は爆弾を仕掛ける、あるいは持ち込む自信があるんだろうか······』


花恋が手帳のメモを見つめながら言うと、灰原は頬杖をついた。


「そうね······もしかしたら、汐留アリーナのほかに八万人以上の人が集まる場所があるのかも······」
「それとも、犯人が嘘を言ってるのかじゃな」


阿笠博士の推理に、コナンと花恋は顔を上げた。


「いや、この手の犯罪の特徴として、犯人は嘘をついていない。それは断言できる。あるとすれば······」


再び手帳に視線を落とし、犯人のメッセージを見つめる。


『言葉のトリックによる、ミスリード······』
_10/16
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