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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
7
正面メインスタンドに戻った二人は、何とか行く方法はないかと横の通路からビジターシートを見た。
しかし、エリアの境には仕切りがあって出入りできないようになっていて、係員も立っている。


「クソッ。どうやったら電光掲示板の所へ行けるんだ!?」


二人は唇をかみ、ビジターシートの上の電光掲示板を見上げた。
すると、電光掲示板の上を縦に走る鉄骨の梁を見つけた。
開閉式屋根をスライドさせるためのもので、スタジアムの上を縦横に走っている。
二人は阿笠博士たちが座っている席に駆け寄った。


「博士っ!車のキーを貸してくれ!」
「コナン君!?花恋ちゃんも!!」
「どこ行ってたんですか?」
「もうすぐ後半始まるぞ!」


ようやく戻って来た二人に、歩美、光彦、元太が続けざまに話しかける。


『いいから、早く!』
「あ、ああ······」


阿笠博士がポケットから車のキーを取り出し、花恋はひったくるように取ってコンコースへの出入り口へとコナンと一緒に走った。
灰原が無言で振り返って二人の姿を見送っていると、後半開始を告げるホイッスルが鳴った。


***


二人は駐車場に着くと、阿笠博士の車の後部座席からスケートボードを取り出した。
阿笠博士の発明品でターボエンジンがついているスケートボードだ。
急いでドアを閉めてスケートボードを地面に置き、靴でスイッチを押して飛び乗るとその後ろから花恋もコナンに抱き着いて飛び乗った。
グワーンとターボエンジンがうなり、白煙を上げながら加速したスケートボードは駐車場を走り抜けた。
試合が始まった大歓声が響くスタジアムを二人は見上げながら、スケートボードを走らせた。


「クソォ······どこか上れる場所はねえのか!?」


植え込みをジャンプして越え、スタジアムの周囲を走っていると、スタジアムの屋根へと続く巨大なワイヤーが見えた。


『新一、あれを上れば行けるんじゃない!?』
「!あれか······!」


コナンはグッと身構えてスピードアップした。
ズギャギャギャ······と白煙を立てながら一気に巨大ワイヤーを上っていく。


「蓮華!しっかり捕まってろよッ!!」
『了解!』


花恋がコナンの腰に回している腕に力をこめる。
やがてワイヤーの先に到着すると、ジャンプしてスタジアムの壁面に着地し、斜め上に駆け上った。


「『!』」


駆け上った壁面は柱の手前で切れていた。
空中に放り出された二人はとっさに身をのけぞらせて花恋が右手でボートをつかむと、コナンは花恋と手をつなぎ、左手を鉄骨に向かって大きく伸ばした。


「届け───!!」


コナンの指先が危機一髪で鉄骨の下の部品をつかんだ。


「ぐっ······!」


コナンは必死で部品にしがみついた。
傷だらけになった左腕が震え、指先から血が出てきた。
その血で指先が滑りそうになり、慌ててつかみ直す。


「ブァ、あぶねえー······」
『新一、大丈夫!?』
「ああ、なんとかな」


心配して見上げてくる花恋に微笑んだそのとき、かぶっていた帽子がとれた。
風にあおられながら落ちていく帽子を二人はチラリと見た。
何十メートルも下で二人を見上げているスタジアムのスタッフやテナントの屋根がとてつもなく小さく見えて、二人はごくりと唾を飲み込んだ


***


スタジアムの屋根にたどり着いた二人は電光掲示板の上にかけられた鉄骨に降りた。
そのとき、花恋がポケットを探ってコナンに「ん······」と絆創膏を渡した。


『そのままじゃばい菌入るよ?』
「おう、サンキュ」


コナンはニカッと笑って絆創膏を受け取ると血が出ている指先に貼った。
鉄骨は足の幅ほどしかなく、バランスを崩せば何十メートルも下に落下してしまう。
サポーターたちの歓声が地響きのごとく伝わる中、二人は手を取り合って慎重に一歩ずつ足を進めていき、やがて太い鉄骨にたどり着いた。
巨大な電光掲示板が真下にある。
ピッチの上では、遠藤がゆっくりとボールに近づいていた。
ボールは見ずに、その先のゴールキーパーを見つめる。
そしてゴールキーパーが重心をかけた足とは反対のサイドにボールを押し出すように蹴った。


〈出ました!遠藤得意のコロコロPK!ガンバ、勝ち越しです!!〉


コナンは鉄骨の上でしゃがみ、犯人追跡メガネで電光掲示板の裏側を見た。
ピピピ······と電子音をたてながらズームアップして、電光掲示板の裏側をくまなく探すが、爆弾らしきものは見当たらない。


「クソッ!どこにもねえ!」


コナンはくやしそうに顔をゆがめた。


『······ってことは』


顔を上げ、スタジアムを見渡す。
反対側のサポーターズシートの上にも、電光掲示板があった。
その距離は二百メートル以上もある。
二人はスケートボードに飛び乗り、白煙を巻き上げながら鉄骨の上を走った。
鉄骨の接合部分をジャンプして飛び越え、突っ走っていく。


***


ピッチの上を縦に走る鉄骨は中央に向かって盛り上がるようなカーブを描いていた。
コナンは鉄骨を一気に駆け上がり、中央の一番高いところで大きくジャンプした。
二人を乗せたスケートボードが宙に浮き、弧を描いて再び鉄骨に着地した。
左右にふらつきながら顔を上げると───目の前に天井のパネルが迫っていた。
二人はすばやくしゃがんでジャンプするとパネルを駆け上がった。
するとパネルの端に接触し、バランスを崩した。
何とか立て直して屋根の上の鉄骨に着地すると、今度は鉄柵が迫って来た。
再びジャンプして鉄柵を越える。


「ぐあっっ!」
『新一ッッ!!』


着地に失敗したコナンは、花恋を抱きしめながら屋根の上を転げ落ちた。
壊れたスケートボードが大きくはずみ、二人の頭上を飛び越えてスタジアムの外へ落ちていった───。


***


屋根の端ギリギリのところで倒れていたコナンの腕の中から抜け出した花恋の上着のポケットの中で、携帯がブルブルッ······と振動した。


「うつ······うう······」
『新一、大丈夫!?』


痛みに顔をゆがめながら体を起こすコナンに駆け寄り支えると、ポケットから携帯を取り出した。
着信は灰原からだった。
鉄骨の上を走っていた二人に気づいた灰原が電話をかけてきたのだ。
花恋はフッと笑い、コナンに見せると通話ボタンを押した。


『ナイスタイミングだよ、哀!』
〈蓮華、そんなところで何してるの!?〉
『近くに元太たちはいないね!?』


花恋は確認すると、東都スタジアムに仕掛けられた爆弾について説明した。


〈爆弾······!?〉
『うん。まだ確認したわけじゃないけど、仕掛けられてる可能性が······』


二人は屋根の上を走って端にたどり着くと、しゃがみ込んで身を乗り出した。
サポーターズシート側の電光掲示板をつるす柱で、何かがギラリと光るのが見えた。


『───!?ごめん、哀。かけなおす!』


花恋は携帯を切り、コナンは犯人追跡メガネの望遠ボタンを押して電光掲示板の周りを注意深く見つめた。
すると───電光掲示板をつるす幾つかの支柱に、爆弾が何個も取り付けられていた。


『新一、どう?』
「やっぱりあった!それも電光掲示板をつるす柱を的確に······!」


爆弾を発見した二人の瞳に動揺と焦りが走る。
犯人は脅しではなく、本当に東都スタジアムで爆発を起こす気なのだ。


『!?待てよ。ってことは······犯人の狙いは電光掲示板を落下させること······』


電光掲示板の下を見た二人は青ざめた。
サポーターズシートには大勢のサポーターがいて、熱い声援を送っている。


「ヤベェ······今、電光掲示板が落下したら、サポーターの命はねぇ······!」


腕時計を見ると───3時10分。


『爆発まであとニ十分······』
「クソォ、何とかしねーと······!」


二人は仕掛けられた爆弾を見つめ、唇をギュッとかみしめた。
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