ハーフタイムになり、席を立った観客たちはぞろぞろとゲートへ向かった。
コナンたちも飲み物を買おうとコンコースへ行くと、売店の前にはすでに人だかりができていた。
「すごい人だね」
「売店はハーフタイムに集中しますからね」
「早くしねーと後半始まっちまうぞ」
歩美、光彦、元太はさっそく売店の列に並び、コナンと花恋と灰原もあとに続いた。
すると、花恋のポケットの中で携帯がブーブーと震えた。
携帯を取り出して画面を見ると、それは蘭からの着信だった。
コナンと顔を見合わせて頷き合う。
『ごめん······私たちちょっとトイレ!』
二人は列から外れて駆け出し、人気のないところまで来ると携帯を開いた。
すると、すでに留守電に切り替わっていて、蘭の声が聞こえてくる。
〈蓮華!お父さんのところに爆破予告の電話が来たの!でも暗号が解けなくて、時間がないの······!〉
((何だって······!?))
コナンと顔を見合わせた花恋は、コナンから蝶ネクタイ型変声機を借り、口に近づけて通話ボタンを押した。
『蘭っ、私!』
〈蓮華······!〉
電話の向こうから蘭の安堵する声が聞こえてくる。
『暗号を教えて!』
二人は柱の陰に隠れて座り込み、花恋が手帳を取り出した。
蘭が言う犯人の暗号をメモしていく。
『······で、ヒントが『次は米花。ネクスト、ベイカ』だね?』
〈爆破予告は三時半なの。あと四十分しかないよ、蓮華!!〉
((四十分······!?))
二人は短すぎる猶予時間に驚いて顔を見合わせた。
『······わかった。少しだけ時間をちょうだい!』
携帯を切ると立ち上がり、コンコースを歩き出した。
顎に手を当てて俯きながら犯人の暗号を口に出して繰り返す。
「青い少年と青いシマウマ······上からの雨。下から人が左の手でそのまま示すのは左の木······」
二人は足を止め、顔を上げた。
青い少年と青いシマウマ───この言葉に何か思い当たる気がした。
しかし、懸命に考えても答えが出ない。
『あぁもう!ここまで出かかってるのに······』
花恋は唇をギュッと噛み締めて目をつぶった。
そのとき、背後で「みんなー!」と女性の声がした。
振り返ると、Jリーグ特命PR部女子マネージャーの足立梨花が四人の小学生に話しかけていた。
周りには撮影機材を持ったスタッフがいて、どうやらテレビの収録をしているらしかった。
「みんな、スピリッツとガンバのマスコットキャラクターは知ってるかな?」
梨花がしゃがんで小学生に質問すると、男の子の一人が元気よく手を上げた
「スピリッツはゼブラくんって言うんだぜ!」
「キックが得意なシマウマだよね」
と隣の女の子も答える。
「じゃあガンバのキャラクターはわかるかな?」
梨花の質問に別の女の子と男の子が手を上げた。
「知ってるよ!確か青いんだよねー」
「ガンバボーイって言うんだよ!」
「スゴーイ!みんなよく知ってるね!」
梨花は大げさに驚いてみせると、体を起こしてニッコリ笑った。
「ガンバボーイはガンバって勝利を勝ち取る元気なサッカーボーイのことなんだよ!」
梨花と小学生のやりとりを聞いていた二人は、ゼブラくんとガンバボーイを思い浮かべた。
((シマウマ······ガンバボーイ······))
頭の中で何かをつかみかけそうになったとき、メインスタンドに続く通路の先から観客の笑い声が聞こえてきた。
二人は「?」と振り返り、通路を走り抜けてメインスタンドに出た。
すると、ピッチの中でハーフタイムを利用して、スピリッツとガンバのクラブマスコットのぬいぐるみが、サッカーのパフォーマンスをしていた。
コナンと花恋は二体のマスコットを見て「!」と目を見開いた。
「『あれだ······!!』」
スピリッツのマスコット『ゼブラくん』はシマウマで、その縞模様はユニフォームと同じ、黒みがかかった青。
そしてガンバのマスコット『ガンバボーイ』は少年で、髪と服、靴の色は青だ。
『青い少年と青いシマウマは、ガンバとスピリッツのマスコットキャラクターのことだったんだ!』
「クソッ!何でこんな簡単なことに気づかなかったんだ······!」
二人は目の前の鉄柵を力強くつかんでくやしがった。
しかし、すぐに別の考えが頭をよぎった。
青い少年と青いシマウマがここにいるということは───。
((まさか、爆弾が仕掛けられてるのは、このスタジアムの中なのか!?))
二人はスタジアムを見回した。
手前側の正面メインスタンド、向かい側のバックスタンド、右手アウェイ側のビジターシート、左手ホーム側のサポーターズシート、照明灯、バックスタンドの上の屋根、電光掲示板───。
((電光掲示板?))
ビジターシートの上に設置された電光掲示板を見て、二人はハッとした。
花恋が慌てて手帳を開き、書きとめた犯人の暗号をじっと見つめる。
【上からの雨。下から人が左の手でそのまま示すのは左の木】「『!やっぱりそうだ!わかった/ぞ!!』」
二人は頭の中で犯人の暗号を漢字の部首に変換した。
『上からの雨』は、〈あめかんむり〉。
『下からの人』は、〈にんにょう〉。
『左の手』は〈てへん〉。
『示す』はそのまま〈示〉。
『左の木』は〈きへん〉。
この四つの部首にそれぞれ文字を組み合わせ、〈示〉と合わせると───『電光掲示板』になる······!
二人は手帳に書かれた犯人のヒント『次は米花。ネクスト、ベイカ』の文字を見つめ、東都環状線の電車を思い浮かべた。
これは、車内のドアの上にある『電光掲示板』に表示される文字だ。
『ネクスト ベイカ』は〈NEXT BEIKA〉。
電光掲示板では、英語の案内も同時に表示される。
『間違いない。爆弾が仕掛けられているのは、この東都スタジアムの電光掲示板だよ!!』
確信した二人はコンコースへ駆け戻り、ビジターシートへ続く階段を駆け上がった。
「まずいぞ······急いで確かめねぇと!」
ビジターシートの入り口から入ろうとすると、
「坊やたち、チケットは?」
女性係員に呼び止められた。
「あ、席に置いてきちゃった!」
コナンはとっさに嘘をついた。
女性係員が二人の前にしゃがむ。
「この先はガンバのサポーター席よ」
『知ってる!私たち、ガンバのファンだから』
花恋が親指を立てて笑うと、女性係員は二人を疑わしそうに見つめ、無言でコナンが後ろ向きにかぶっていた帽子を取った。
「あ······!」
帽子についていたロゴを見せられたコナンは思わず声をもらした。
スピリッツの帽子を灰原に無理やりかぶらされたことを忘れていた······!
「嘘はダメ。自分の席に戻りなさい」
女性係員がコナンの頭に帽子を前向きに戻した。
『お願い、お姉さん!ちょっとだけでいいから!』
花恋が顔の前で両手を合わせて頼んだが、
「ダーメ!」
女性係員は二人の後ろに回り、二人を通路へ押し戻した。
(クッソー!灰原のヤツ余計なことしやがって!)
「そういえばオメーは持ってねーのかよ、あの帽子」
『あれはビッグ大阪のだし、新一が勝手にとって哀に預けたでしょ!!』
「そういやぁ、そうだっけ······」
ハーフタイムになってみんなで売店へ行こうと話になるとコナンが無言で花恋が持っていたビッグ大阪のエンブレムがついている帽子を奪って灰原に預けたのだ。
その時、花恋がすばやく抗議の声を上げたがコナンの鋭い睨みで体を縮こませたので、灰原に笑われていた。
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