×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
5
サッカー教室から二週間後。
東都スタジアムでは東京スピリッツとガンバ大阪の試合が行われ、八万人も収容できる観客席はサポーター達で埋め尽くされていた。
前半四分、ガンバ大阪の遠藤が蹴ったボールがゴールに突き刺さり、ビジターシートのサポーターたちから地鳴りのような大歓声がわき起こった。


〈ゴール!遠藤、見事にフリーキックを決めました!〉


テレビ実況放送室から日売テレビアナウンサー・野本博昭が叫ぶと同時に電光掲示板に『GOAL』の文字が大きく映し出された。
人差し指を立てて駆け出す遠藤にガンバ大阪の選手たちが飛びつく。


「スゲーッ!教えてくれたフリーキックと同じだ!」


正面メインスタンドで観戦していたコナンが思わず立ち上がってガッツポーズをすると、


「ちょっとコナン君!どっちを応援してるの!?」
「いくら遠藤選手がこの前フリーキックを見せてくれたからって······」
「江戸っ子が大阪のチームを応援するなよな!」


並んで座っていた歩美、光彦、元太が非難した。
歩美はタオルマフラー、光彦はユニフォーム、元太はサッカーボールと、サッカー教室で赤木にサインしてもらったグッズをそれぞれ持ってきている。


「わーったよ」


コナンがやれやれと思いながら座ると、花恋の隣の席の灰原がかぶっていた帽子をコナンの頭にポンとのせた。


「はい。それかぶって、あなたもスピリッツを応援しなさい」
「え?だっておめー······」
「大丈夫。私は新しいの買ったから」


灰原はそう言って取り出した別の帽子をかぶった。
その帽子の正面には、比護が所属するビッグ大阪のエンブレムがつけられていた。


『哀、やっぱり······』


花恋がニヤニヤ笑うと、灰原は澄まし顔で前を向いた。


「カン違いしないで。色が気に入っただけよ」
「······ったく、素直じゃねーな」


比護選手が好きなら素直にそう言えばいいのに───とコナンが苦笑いし、帽子を後ろ向きにかぶり直した。
その姿に密かに花恋が(カッコイイ······!!)と悶えていると、灰原はチラリと花恋を見た。


「それはそうと、蓮華はなんでその帽子を買ったのかしら?」


コナンも花恋を見ると、その手には灰原と同じビッグ大阪のエンブレムがついている帽子が握られていた。
花恋がそれを軽く持ち上げて、「あはは」と笑う。


『なーんか衝動的に?』

(貴大くんがいるからーなんて言えない)

「そう······。あの真田選手がらみじゃないのね」
『え!?』


灰原がニヤニヤと笑いながら聞くと、花恋は思わず冷や汗を流してギクッと体を揺らした。
そんな花恋をジト目で見たコナンは「ケッ」とそっぽを向いた。


「真田選手ねー······」
『な、何よ』
「別に」
「あら、男の嫉妬は醜いわよ?工藤君」


茶化すように灰原が言うと、


「ば、バーロォ!そんなんじゃねーよ!」


顔を赤くして灰原に怒鳴り返した。
その隣で花恋もひそかに頬を染めた。


「それより、中学生の工藤君がやらかしたこと、思い出したの?」
「え?」


灰原に言われたコナンは、眉をしかめて前かがみになった。


「さあ······どうだかねえ······」


あいかわらずコナンに心当たりがなかった。
チラッと隣の花恋を見る。


(蘭のヤツ、何を怒ってたんだ······?)


***


東都スタジアムでは、開閉式屋根が開かれたピッチで選手が激しい攻防を繰り広げていた。
ガンバの選手が放ったボレーシュートをスピリッツのゴールキーパーがはじき出すと、スピリッツの選手がそのボールを受けて一斉にカウンター攻撃を仕掛けた。


「やったー!」
「カウンターですよ!」
「行けーーー!!」


スピリッツの攻撃に興奮した歩美、光彦、元太が叫び、コナンと花恋も「スゲー/スゴイ······」と感心しながらスピリッツの選手を目で追った。


「『ん······?』」


ふと斜め後方に目を向けると、中岡がコンコースからスタンド席に入ってくるのが見えた。
中岡は左右を見回し、右へと歩いていく。
二人が目で追っていると、


((あれ?))


今度は本浦と榊の姿を見つけた。
本浦が近づくと座っていた榊が立ち上がり、互いにお辞儀して横並びに座った。


((みんな試合を観に来たんだ······))


顔を前に戻しかけたコナンと花恋は、テレビスタッフ用のエリアの中で携帯を片手にした山森を見つけた。
携帯に向かってしきりに何かを怒鳴っている。


((山森さん······やっぱいるよな))

「どうしたの?」


後ろを向いている二人に、灰原が声をかけた。


『いや、みんないるなと思って······』


そう言ってピッチに目を戻すと、さらにゴール横の看板の後ろに走り寄っていく薫の姿を見つけた。
看板の後ろにはカメラマンがすでに並んでいて、その後ろについた薫は写真が撮りづらそうで困った顔をしている。
あの調子ではスクープをものにするのは当分先のことだろう。


((サッカー教室に来てた五人がそろってやんの))


二人は思いがけない偶然に顔を見合わせてハハ······と笑った。


***


東都スタジアムでは東京スピリッツとガンバ大阪の白熱した試合が続いていた。
スピリッツの植村直樹が左サイドをドリブルで駆け上がりロングパスを蹴った。
ゴール前に走りこんだ赤木がセンタリングされたボールに飛び込み、ヘディングシュートを決める。


〈ゴール!スピリッツ、赤木と植村のコンビで得点です!〉


野本アナウンサーが叫ぶと電光掲示板に1−1と表示され、光彦、歩美、元太は飛び上がって喜んだ。


「やったー!!」
「ヒデー!」
「江戸っ子だぜ、二人ともー!!」
「さすがヒデとナオキの黄金のツートップだ!」


興奮したコナンも拳を握りしめて喜ぶ。
そこへ主審の笛が鳴った。


〈ここでホイッスル!スピリッツ同点に追いつき、前半終了です!〉
_5/16
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ Main / TOP ]