あぁ、うざったい。

あぁ、うざったい。

背中に感じる重みが鬱陶しい。

オマケにその重みの原因はやけに五月蝿い。

「和真先輩、今日も美人ですねっ」
「黙れ」
「そんな照れなくてもいいじゃないですか」
「頭湧いてんのか?」
「先輩への愛で心は湧きだっていますけど?」

あぁ、うざったい。

俺は大きな溜め息を吐き出すと、緩慢な動きで背後へと首を回した。

思ったよりも近くにある相手の顔。

「あ、ようやくこっち見てくれた」
「一条……ここは三年の教室だ。お前が何年か言ってみろ」
「一年A組一番の一条 匠です」

余計なことまで答える一条を鈍く睨むも、ヤツには何の効力も発揮しない。

どころか、にっこりと素敵な笑顔を返されてしまった。

天文部なんてマイナーな部活の部長をやってしまってる俺。

入学早々見学に来たのは一条一人で、部存続のために決して逃すものかと熱烈歓迎をしてしまったのがいけなかったのだろうか。

季節は六月。

新入部員はコイツ含めて三人と、いつにない数で安心して引退しようと思っていたら、突然の告白と来たもんだ。

『先輩のことが好きになってしまいました』

実に気持ちのいい笑顔で言われても、理解なんざ出来ない。

それなのに、毎日のようにやってきてはニッコリ俺への愛を延々語るのだ。

始めは遠慮がちだった俺の拒絶も、今ではスパッと直球。

「先輩、愛してます」
「うぜぇっ」

どれだけ邪険にしても一向にめげない一条は、目下頭痛の種である。

背後から抱きついてくる腕はどうにも離れず諦めると、もう一度嘆息した。

「ほら、もう予鈴鳴るから自分の教室帰れよ。一年の離れてんだから」
「鳴ったら帰ります。心配してくれてありがとうございます、先輩」
「心配だぁ?俺が迷惑してるってことをいい加減理解しろ、学年主席」
「じゃあ先輩もそろそろ落ちてくれませんか?」

無茶を言うな。

他のクラスメイトは、最早定番となった俺たちのやり取りを面白そうに眺めるだけだ。

ズキズキと痛み出した頭にうんざりしながら、俺は投げやりな口調で言った。

「あのなぁ、ほんと勘弁してくれ。な?俺これでも立派な受験生なわけ。お前の相手してるヒマないの。そーゆー冗談通じるヤツんとこにでも行け」
「は?」

言ったら、やけにマヌケな声が聞こえて驚いた。

「先輩何言ってるんですか?冗談なわけないでしょ」
「俺としては冗談で済ませたいんだけど……」

一条はさもおかしそうに笑うと、俺の首に回した腕に力を込めた。

え?




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