暗く濁った空は陰鬱なグレー。

今にも雨音が聞こえて来そうな危うい天候に、ヨシタカは常に笑顔を浮かべる端正な面を、僅かに翳らせた。

季節は梅雨に入った。

一年の中で、ヨシタカが最も疎む季節だ。

連日続く雨はもちろん、神経を苛むじっとりした湿気が堪らなく不快で、些細なことで苛立ってしまう。

皮膚に纏わりつく蒸し暑い空気に零した、らしくもなく舌打ちは、終礼直後の教室の喧騒に呑まれて消えた。

だが、顰められた表情はそうも行かなかったらしい。

「なに機嫌悪くなってんだよ」

かけられた声に、ヨシタカは内心ぎょっとしながら、窓の外を眺めていた瞳を室内へ戻した。

待っていたのは隣りのクラスの友人である。

「えー、なってないけど?」
「いつにも増して笑顔がウソくさい」
「ひどっ!」

鋭い指摘に「さめざめ」と泣き真似をすれば、相手は呆れた風に嘆息した。

繊細なフルリム眼鏡の奥から注がれる冷ややかな眼差しが、机についたままのヨシタカを見下ろしている。

咎めるようにも哀れむようにも見える友人の眼に、嫌な予感が胸をざわめかせた。

「……なに?」
「いや、お前が馬鹿な真似やっている間に、誰かは賢く立ち回っていると思うと、世の無情を感じずにはいられなくて」
「分かりやすく言うと?」
「由愛がナツにつきまとってる」

予感的中。

与えられた返答に、ヨシタカはぎゅっと拳を握り込んだ。

幼いころから一緒だったナツは、ヨシタカの幼馴染。

誰よりも好きで、好きで、どうにもしようがなくて、気を引きたいがために何人もの女の子と付き合った。

臆病な本音を卑怯な計算で覆い隠して、遠回りをしていた日々。

すべてが終わって、すべてが始まったのは、つい最近の話だ。

幼馴染だったナツは、ヨシタカの恋人になったのである。

「そんな話、ナツからは聞いてない」

一気に膨れ上がった不快感に負けて、繕った笑顔は厳しい表情に変貌した。

肺に滑り込むぬるい温度が癇に障り、制服のネクタイをぐいと緩める。

「言うわけないだろ。ナツはつきまとわれている自覚ないんだから」
「……性質わるい」
「最初からナツ狙いなの、分かってたから付き合っていたくせに」

言い返す言葉はなかった。




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