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「……前から聞きたかったんだけどさ」
「なに?」
「お前、本気で彼女、たちのこと好きなわけ?」
少しばかり考えて、複数形にした。
彼の彼女は自称も含めて相当な人数なのだ。
ヨシタカは女子が好きそうな甘い笑顔で、即答した。
「好きだよ、それなりに」
「それなりって、さっきからお前な……」
眩暈がする。
好きだと言う割に、ヨシタカの言葉は軽い。
心の底から「それなり」に好きなのだと、分かってしまう。
だから、複数の人間と同時に付き合えるのだ。
何て不誠実。
何て不道徳。
ここら辺りで釘を刺しておくかと、ナツはデスクチェアを回転させて、ずっと背を向けていた相手をようやく振り返った。
「適当なことばっかりやってると、いつか見限られるぞ」
「別にいいよ」
「は?いいわけないだろ」
「いいよ、俺にはナツがいるし」
当たり前のように言われて、思わず硬直した。
呆気にとられた様子のナツを、ヨシタカはじっと見据えてもう一度。
「俺にはナツがいる。彼女が一人もいなくなったって、俺は何も困らない」
「……」
「ナツ?」
呼びかけられて、我に返る。
明らかな動揺を誤魔化す意味も込めて、ぶっきらぼうな口調で言った。
「俺だって、いつか見限るかもしれないぞ」
「それは困る」
またしても、即答。
ナツはまたしても硬直だ。
じわじわと熱を持つ頬に気付いているのに、俯くことすら出来ない。
ベッドから身を起こしたヨシタカが、開きかけた口。
手で押さえて発言を中断させたかったけれど、フリーズ状態はそう簡単には解けなかった。
「ナツに見限られるのだけは、困る」
はっきりと、宣言。
数多の彼女たちよりも、ナツ一人の方がよほど重要なのだと、ヨシタカ。
ドッドッと走る心臓に、困ってしまう。
くらくらする頭に、困ってしまう。
困りきったナツの前で、幼馴染は無邪気に笑った。
「もし見限られたら、俺はナツに相談しに行くよ。幼馴染に見限られたんだけど、どうすればいいって」
無邪気な約束をしてしまったと、そう思う。
困ったことがあったら、一番に相談するなんて、出来るわけがないと気付くのは、幼い約束を交わして四年後のこと。
そこからさらに五年の時が経過するにつれ、どんどんと重荷になった。
今、ナツは困っている。
誰にも相談できずに、困っている。
幼さゆえの約束が、ナツを困らせていた。
END.
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