◇
「おれたちさ、大人になっても友達だよな」
「とうぜんだろ」
「じゃあさ、なにか困ったことがあったら、一番に相談しよう」
「わかった。ぜったいに、相談するよ」
無邪気な約束をしてしまったと、そう思う。
困ったことがあったら一番に相談するなんて、出来るわけがないと気付くのは、幼い約束を交わして四年後のこと。
そこからさらに五年の時が経過するにつれ、どんどんと重荷になった。
ナツにとってヨシタカが「特別」なのは、昔から変わらない事実。
けれど、その「特別」の意味が変わってしまったのも、絶対の真実。
今、ナツは困っていた。
約束通り、ヨシタカが持ちこんで来た相談ごとによって、この上なく困っていた。
「有紗とメグ、どっちと付き合うべきだと思う?」
「お前さ、それ本当に困ってんのか」
「当たり前だろ。どっちもそれなりに好きなんだもん、選べない」
「刺されてしまえ」
「ひどっ」
何がひどいものか。
ナツは疲れたように溜息を吐く。
ヨシタカの女癖の悪さと言ったら、近隣の高校にまで伝わるほど有名だ。
二股、三股は当たり前。
別れた次の日には新しい彼女と手を繋いでいたり、友達の彼女を奪ってしまったり。
180を越える身長と整った顔を武器に、浮き名を流しに流しまくっていて、もはや一種の公害だ。
「お前、この前彼女できたばっかりだろ。なんでもう次の子なんだよ」
「三番目でもいいって二人が言うから」
「……二番目はもういるのか」
「由美ちゃん」
「名前なんて聞いてない」
本人に悪気がないのが、最大の問題。
一部の女子から軽蔑の眼で見られても、多くの男子から嫉妬の眼で見られても、ヨシタカにはまったく効果がない。
笑顔で新しい女の子の心を捕まえて行く。
そうして、少し面倒なことになる度に、ナツの部屋にやって来ては延々「どうしよう、ナツ」と繰り返すのである。
本当に、困る。
「ヨシタカ、俺に聞くな」
「なんでだよ、俺ら幼馴染じゃん」
「幼馴染がアホ話に付き合ってやる理由にはならないだろ」
「約束したじゃん。困ったことがあったら、一番に話すって」
「そうだけど、お前が本気で困っているようには見えない」
「困ってる。すっごい困ってる。有紗もメグも三番目がいいって言ってるんだから、俺どうすりゃいいよ」
人のベッドに寝転んで、わめく幼馴染が憎い。
そんな相談ごとをされても、ナツは困ってしまう。
ヨシタカを突き離せないナツは、困ってしまうのだ。
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