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「でさ、俺どっちと付き合えばいいと思う?」
「……有紗って子と、メグだっけ?」
「そうそう」
「その前に一つだけ確認させろ」
「なに?」
こてんっと首を傾げた幼馴染を、咎める眼で睨みつけた。
「お前、この前も同じような相談もって来なかったか」
「ん?あー、うん。香織と由愛とどっちにしようかーって」
「それで、由愛ちゃんにしたんだよな」
「うん、そう」
「もう別れたのか?」
「ううん、付き合ってるよ」
平然と返されたのは、予想通りの回答。
肩を落としたナツの口からは、重量感溢れる溜息だ。
「お前、それいい加減に直せよ」
ヨシタカはモテる。
180を越える長身と甘く整った顔に、人懐っこい性格。
年間通して彼に告白をして来る女子の人数は、両手の指をすべて使っても足りないほど。
そうしてヨシタカは、自分に愛を告げて来た者すべてと付き合うのだ。
二股、三股は当たり前。
先輩の恋人だろうが友達の片思いの相手だろうが、告白されれば全員に「いいよ」と返す。
最低最悪の女癖。
何より悪いのは、ヨシタカ自身に悪気がないという点だ。
「どうせ香織ちゃんとも付き合ってるんだろ」
「うん。今は二番目が由愛で三番目が香織で、四番目が加奈子」
「で、今回は有紗とメグのどっちを五番目にするか、なんだな」
「さすがナツー。よく分かってるじゃん」
「刺されてしまえ」
「ひどっ!」
ひどいのはどっちだ。
人の気も知らないで、いつも恋愛相談ばかり持ちこんで来るヨシタカの方が、よほどひどいだろう。
こうしてヨシタカがナツに相談するたびに、ナツは相談できない困りごとを、どんどんと腹に溜め込んでいる。
一番に相談しなければならない相手に相談できないのだから、他の誰に話せるはずもなく、蓄積される重苦しい感情を抱えるばかり。
嫉妬とか焦燥とか恋情とか。
ヨシタカが約束を果たすたびに、増して行く厄介な感情。
ひどいのは、どっちだ。
「なー、そんなこと言わずに、どっちを五番目にするのがいいか、一緒に考えてよ」
「っ……」
「ナツ?」
「……なんでもない。お前はどっちの方が好きなんだよ」
無邪気な顔で酷なことをねだられ、奥歯を噛みしめた。
どうにか衝動をやり過ごし、ナツは取り繕うようにいつもの質問をする。
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