無邪気な声音が、耳の奥に響く。

過去の記憶が、閉ざした目蓋の裏側に映る。

晴れ渡った空の下、ヨシタカの家の庭で交わした幼い約束。

「おれたち、ずっと親友だ」
「うん、親友だ」
「なにか困ったことがおこったら、ぜったいに一番に相談しよう」
「うん、一番にナツに相談する。だから、ナツもおれに相談してよ」

切りだしたのは自分だと思い出せば、過去の己が憎くなる。

何て約束をしてくれたんだ。

その約束が、後にどれほど自分の首を絞めるのか分かっているのか。

言ってやりたいけれど、すべては過ぎたこと。

今のナツに在りし日の約束を破棄する術はない。

だから――

「なぁ、どうすればいいと思う?ナツ」
「……」
「なぁ、ナツってばー」
「……」
「有紗とメグ、どっちと付き合えばいいと思う?」
「黙れ、無節操タラシ」

ナツは重苦しい嘆息一つで、追憶から抜け出した。

開いた眼に映るのは、さして困った風にも見えない幼馴染の端正な顔。

人のベッドに我が物顔で寝転んで、こちらをじっと見つめて来るヨシタカに、苦々しい思いが込み上げる。

「お前の下らない話に付き合ってやる暇はない」
「下らなくなんかないだろ。俺、そこそこ困ってるんだって」
「そこそこ、なら俺のところに来るなよ。他のやつに相談しろ」
「ハクジョーモノー、約束忘れたのかよ」
「……」

不満そうな顔で言われた言葉に、反論が出来なかった。

約束。

それは魔法の言葉。

「俺は約束守って一番にナツに相談してるだけだろ」
「……」
「ナツも約束通り、俺の相談に乗ってくれなきゃ駄目じゃん」
「うるさい」

首を傾げる幼馴染をこれ以上見てはいられなくて、ナツはふいと顔を背けた。

勉強机に広げた数学の宿題に向き合う。

だが、すぐに背中に飛んで来た「ナツー」の声に、数式が頭に入ってくるわけもない。

次第に高まる苛立ちを、シャープペンを握る指先にぶつけて我慢していると言うに、相手はギッと音を立ててベッドから立ち上がると、ナツの華奢な肩へと腕を回して来た。

「ちょっ、離れろよ!」
「ナツがいけないんですー。約束破って俺の相談ムシするから」
「わ、かった、わかったから離れろ!」
「はは、やっぱナツは優しいなぁ」

駆け足になった鼓動を知られたくなくて、慌てて承諾すれば、ヨシタカの拘束はあっさりと外れる。

それにホッと胸を撫で下ろしながらも、僅かな名残惜しさを覚えてしまう自分に、胸裏だけで舌を打った。




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