「くさい」セリフを言わせてみた。-仁志×綾瀬編-





眩い輝きを放つ都市の姿は、夜天を飾る星々が降り注いだかのようだ。
連なるビルの白い光たちが、艶めく黒に瞬くのを見ていると、不可思議な引力に吸い込まれそうになって、綾瀬は硝子窓についと手を伸ばす。
細長く繊細な指先が、外界とを隔てる透明な仕切りにぬくもりを伝える前に、骨張った手に捕まってしまった。
綾瀬のそれよりも一回りは大きな掌の持ち主を、夜景から逸らした瞳にゆっくりと捉える。

「仁志くん」
「……外ばっかり見ないで下さい」

ネクタイを緩めた年下の男は、少しだけ不満そうな顔をしていた。
金髪の下にある鋭い眼が、咎める視線で綾瀬を見下ろしている。
その素直な反応が可愛らしく思えて、たおやかな美しさを持つ麗人はくすりと微笑んだ。

「ヤキモチ?」
「夜景なんて見慣れてるでしょう」
「久々だったから、つい魅入っちゃった。ゴメンね、もう仁志くんのことしか見ないから、怒らないで」

笑みを深めて見つめると、間近にいる男の頬が瞬間的に赤く染まった。
綾瀬の手を握る力が少しばかり強くなる。

正直な反応は、完璧な空調管理のされたエグゼクティブスイートの室温を甘い温さに変えてしまい、綾瀬の頬も熱を持つ。

「……なんか、喉、乾いちゃった」
「え?あぁ、そういや忘れてた」

ぼんやりとした面持ちで綾瀬の紅茶色の虹彩を見つめていた仁志は、はっと我に返った様子で瞬きを繰り返す。
手を離して側のバーカウンターに向かうと、二つのフルートグラスを手に戻って来る。
シュワシュワと水面に昇る炭酸は、シャンペンだ。
差し出された華奢なグラスを受け取った。

「いいの?未成年なのに」
「これは『水』です。アルコールなんかじゃありません」

明らかな嘘を悪戯っぽく、そして堂々と言い切る仁志に、笑い声で返した。
二人きりの部屋、贅沢な夜景、愛する人と過ごす幸せな時間なのだから、つまらないことには目を瞑ってしまおうか。
弾ける気泡を愛しげに眺めた綾瀬は、静かに肩を抱き寄せられて、目を上げる。

「もう、俺しか見ないんじゃなかったんですか?」
「うん。そうだったね」

自分で言った台詞を持ち出されて、素直に頷いた。
仁志の真直ぐな眼差しに貫かれ、心地よい緊張感を覚える。
洋服越しに感じる体温に、身内の熱がくらりと揺らめいた。
綾瀬はもう、仁志以外を見ることは出来ない。
瞬きすら厭うように視線を交じり合わせていたら、年下の男は怜悧な双眸を蕩けさせて言った。

「なら、綾瀬先輩の瞳に、乾杯……」

カツンッと涼しげな音を立てて、二つのグラスがぶつかった。




言わせたかった!このクサ過ぎて恥ずかしい台詞を仁志に言わせたかったんです!!
ちなみに、この直後に綾瀬先輩は爆笑して、いい雰囲気は粉砕されます(笑。




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