10年4月1日限定「嘘と言わせて。」
※4月1日にnavy本編第七章P.58〜P.59として掲載された、嘘っこ本編です。
「気付いていないと思っていたのかっ」
呆然とした面持ちのまま、煉瓦道を寮に向かって進んでいた少年は、頬を掠める秋風に乗って届いたその声に、思わず足を止めた。
周囲を見回すも、休日の校舎付近は閑散としていて、人影などどこにも見当たらない。
だが、聞き間違いと判断することは出来なかった。
光にとって耳に馴染み過ぎた、凛と響く低音は彼のものだ。
含まれる焦燥を敏感に感じ取り、わけもなく心臓が急くのを感じながら、光は忙しなく目を動かした。
今、考えるべきことは須藤の言葉。
あれはこちらの背景に何かしら確証を持っている物言いだ。
それなのに光は、寸前の衝撃も忘れ、一度だけ聞こえた音色を求めて足を動かした。
見つけたのは、裏庭。
高い生垣で囲われ内側を窺うことの出来ない庭を、学院ではそう呼ぶ。
神経を研ぎ澄ませれば、人の気配も感じて、光は「彼」がいることに確信した。
「かい――」
穂積 真昼を思い踏み入ろうとした革靴は、呼びかけと共に停止した。
生垣の切れ間から覗いた光景によって、ほとんど強制的に停止させられたのである。
「ほ、づみ……」
「お前が真実、誰を想っているのか。俺が、本当に分からないと思ったのか」
寄りそう二つの人影。
いつもの通り制服を纏った生徒会長の、漆黒の髪が触れるのは、抱き込んだ相手の甘栗色の髪。
華奢な腰を引き寄せて、ぴったりと身を寄せ合ったシルエットに、光は目を見開いた。
「滸」
「やめて……はな、して、穂積」
「真昼だ。お前の口からそう呼ばれるたび、俺が何度息苦しさを覚えたか、お前は分かるか」
「っ……」
穂積の腕の中には、彼の幼馴染。
先日、仁志と恋人同士になったはずの綾瀬の姿を見つけ、混乱する。
どうして、綾瀬が穂積に抱きしめられている。
どうして、穂積は綾瀬を抱きしめている。
違う。
本当は理解してしまった。
彼らの交わす言葉が孕んだ、切ない響きを耳にしてしまえば、理解するしかなかった。
「滸、お前の本当の気持ちを言え」
「真昼……真昼っ」
「そうすれば、俺はすべてを叶えてやる」
「僕は、僕はキミのことが、あの日からずっと、キミを忘れられなかった……!」
「滸っ」
感極まった様子で言い募った二人の唇が、堪え切れぬ性急さで合わさるのを、少年の瞳はスローモーションのように映しだしていた。
【ネタばらし】
えー、4月1日。
エイプリルフールです!
穂積×綾瀬要素は完全なる嘘でございますー。
完全に忘れていて、数分で作った文章ですが「ぎょっ」と言って頂ければ嬉しいです←
ではでは、皆様、ハッピーエイプリルフール♪
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