◇
うわっ。
言いきれる自分がかなりカッコイイ。
白いユニフォームを土で汚して、坊主八割の部員の中で短髪の黒髪のまま4番背負って。
あぁ、アイツにしか目がいかない。
小学校からの腐れ縁だったのに、いつからこんな好きになったんだろ。
土に汚れたアイツがひどく眩しかった。
「何寝てんだ」
ポカッと頭に衝撃を感じで顔を上げたら、正面に制服姿のアイツがいた。
「……試合は?」
「あ?見てたのか」
「途中で寝たけど」
俺の前の席に当たり前の顔して座る。
「勝った勝った、あのまま逃げ切った」
嬉しそうに笑うクセに、なんだか大人びて見える。
あれ?
コイツ、こんな顔してたっけ?
見慣れたアイツの顔なのに、まるで別人を前にしている気がした。
いい意味で。
「ん?どした?」
ボケッと見つめていたようで、アイツが不思議そうに俺の瞳を覗き込んで来た。
鼻をつくのは汗と土、そしてアイツの匂い。
「好きなんだけど」
気が付いたら口が勝手に動いていた。
スルリと自然に吐き出された真実。
え?
ちょっと待て。
俺、今なんて言った!?
「うわぁぁぁっ!!」
ガシャンと音を立てて椅子から転げ落ちた。
痛い。
いや、そんなのはどうでもいいんだ。
重要なのはそんなことじゃない。
「ち、ちがっ、変な意味じゃなっ……いや、だからっ!!」
全身が熱い。
ハイスピードで存在を主張する心臓が、とてつもなく苦しい。
しまった。
何言ってんだよ、俺。
ガクガクと震える膝で立ち上がり、鞄をひっつかむ。
アイツの顔なんか、見れるはずもなかった。
「お、俺…もう帰るからっ、じゃなっ!!」
なんとかそれだけ言葉にすると、俺は一度もアイツを振り返らないまま、教室を飛び出した。
ヤバいヤバいヤバい。
バレたっ!
違うっ!!
バラしたっ!!!
ダダダダダっと物凄い足音が、何故だか遠くに聞こえる。
誰もいない廊下を、全力疾走。
頭が沸騰しそうだ。
俺は末期だ。
ぶつけた腰や尻は痛むけど、俺が足を止めることは無かった。
END.
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