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僅かにペースが早くなっていたが、葉瑠には気付けない。
自分も彼の後を追い、夕焼けを背にした。
「……足、大丈夫なのか?」
「えっ!?」
一希の呟きに葉瑠の心臓は飛び跳ねた。
「な、なんで知ってんだよ?」
上擦る声に訝気な眼差しを投げてくる友人には、きっと赤面しているのが分かったのだろう。
軽く笑うと一希は葉瑠の右足を軽く蹴った。
「スライディングしたんだろ?いいじゃん、体育でそこまでするヤツ、カッコイイ」
「……あ、う、ども」
どうやら頬を染めた理由を勘違いしてくれたようで、葉瑠はこっそりと息をついた。
しかし、おかげで余計な思考が戻って来てしまった。
優しい伏見。
大人な伏見。
答えの出ない問題が、頭の中を支配する。
「……」
「……」
沈黙。
気まずいようなそれではなく、お互いの意識が各々の内側に向かっている時のもの。
二人は気付かない。
自分の発した何気ない一言が、クラスメートに爆弾のような衝撃を与えたことに。
空はもう、薄紫に暮れていた。
END.
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