制服のズボンの下は包帯でぐるぐる巻きだった。

葉瑠はさして痛むわけでもない左足に何度も目をやりながら、帰路に着く人間に満たされた駅を歩いた。

スライディングで擦った程度の怪我なのに、伏見は丁寧に消毒をし、ガーゼを当てて包帯を巻いた。

少しやり過ぎだ。

足に触れる彼の指先は、伏見の性格を表すように優しく、葉瑠の胸を悪戯にくすぐった。

正直、困った。

こんなにも優しく扱われて。

こんなにも大切にされて。

勘違いをしてしまいそうな浅はかな自分は、それは惨めで仕方ない。

「はぁ……」

ため息を吐いた時、目の前をよく知った人物が横切った。

「一希!」
「っ!?」

呼び掛けた友人は、物凄い形相で葉瑠を振り返った。

「な、んだ……葉瑠か」
「なんだって、なんだよ。なぁ、もう帰るんなら途中まで一緒に帰らねぇ?」
「いいよ」

コクンっと頷く一希の手には、大型コーヒーチェーン店のなんちゃらフラペチーノがあった。

葉瑠には同じような商品にしか見えないので、『なんちゃら〜』である。

緑のストローはガシガシと噛まれたように、醜く潰れていた。

「お前、噛むクセあったっけ?」

なんとなく気になって言えば、一希はゆっくり歩きだす。

「別に。たまたまだよ」
「ふ〜ん」

彼と同じ歩調で隣に着いた。

茜に染まった駅前は、朝のように時間に追われることもなく、不思議にゆったりとした空気が漂っていた。

一希はそれに倣うように、のんびりとしたペースで足を進める。

と言っても、時間など関係なしに一希の歩調はいつもゆっくりだったけれど。

どちらかと言えば一歩を広く取り、スタスタ歩く葉瑠も、一希と居る時だけは自然とのんびり進むのだった。

横断歩道の信号が点滅する。

ちょっとだけ小走りになる二人。

渡り終えればまたのんびり。

「そういや、瀬野どうしたん?今日休みだったろ?」

ふっと思い出したように隣を見た葉瑠だったが、そこに尋ねた相手は居なかった。

「……何やってんの?」

少し後ろで立ち止まった一希を、不審気に見やる。

フラペチーノのストローを噛み締めた一希は、うつ向いたままで答えない。

「俺、なんかマズイこと言った……とか?」

彼の前まで戻り、下を向いた顔を覗き込むようにして窺う。

「違うよ、気にすんな」

ぶっきらぼうに言った一希の顔は、夕焼けを映して真っ赤にみえる。

「そか……?」

なんだ。

何か地雷を踏んだのかと思った。

ほっと胸を撫で下ろす葉瑠をよそに、一希は再び歩きだした。




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