オレはお前が嫌いだ。

そう、お前だよ。お前。

オレのことニヤニヤしながらジロジロ見やがって。

一体何様のつもりなんだよ。

「保健医様だ」

う……。

考えを見透かしたように言われて、オレは反抗的な視線を僅かに怯ませた。

「ほら、そんな顔で見つめられても誘ってるようにしか見えないから」
「ば、ちょ、お前なに言って……!」

ヤツの言葉に、血液が一気に沸点に到達する。

「あーはいはい。分かったから、怪我したとこ出して」

サラリと流しやがって。

だから嫌いなんだ。

お前のこと。

オレはしばらくヤツを睨んだ後、諦めたようにジャージの裾を捲ってすり剥けた膝を露にした。

踝からふくらはぎまでの皮膚がズタボロ。

土を洗い流したせいで、血の色がよく分かる。

「おいおいおい」

ヤツが眉根を寄せる。

「お前なにやってこんな傷作った?」
「……体育」
「あぁ、今の時期はサッカーか」

一人納得したように呟くと、ヤツは保健医らしく手当を始めた。

消毒液を浸したガーゼが足に触れる。

「……っ」

ちょっと染みた。

案外痛いぞ、コノヤロウ。

こういう時だけは、ヤツも真面目な顔。

いつものニヤケ面とは大違い。

真剣な眼差しで丁寧に手当を施すヤツの顔から、目が離せない。

今は俺の瞳を見ないから。

思う存分、観察してやる。

じゃなきゃお前の顔なんて、なかなか見れないんだよ。

分かってんのかよ。

お前が俺を見るせいで、俺はお前が見れないんだ。

「どした?」

気が付いたようにヤツが俺に視線を投げた。

「っでもないっ!」




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