◇
オレはお前が嫌いだ。
そう、お前だよ。お前。
オレのことニヤニヤしながらジロジロ見やがって。
一体何様のつもりなんだよ。
「保健医様だ」
う……。
考えを見透かしたように言われて、オレは反抗的な視線を僅かに怯ませた。
「ほら、そんな顔で見つめられても誘ってるようにしか見えないから」
「ば、ちょ、お前なに言って……!」
ヤツの言葉に、血液が一気に沸点に到達する。
「あーはいはい。分かったから、怪我したとこ出して」
サラリと流しやがって。
だから嫌いなんだ。
お前のこと。
オレはしばらくヤツを睨んだ後、諦めたようにジャージの裾を捲ってすり剥けた膝を露にした。
踝からふくらはぎまでの皮膚がズタボロ。
土を洗い流したせいで、血の色がよく分かる。
「おいおいおい」
ヤツが眉根を寄せる。
「お前なにやってこんな傷作った?」
「……体育」
「あぁ、今の時期はサッカーか」
一人納得したように呟くと、ヤツは保健医らしく手当を始めた。
消毒液を浸したガーゼが足に触れる。
「……っ」
ちょっと染みた。
案外痛いぞ、コノヤロウ。
こういう時だけは、ヤツも真面目な顔。
いつものニヤケ面とは大違い。
真剣な眼差しで丁寧に手当を施すヤツの顔から、目が離せない。
今は俺の瞳を見ないから。
思う存分、観察してやる。
じゃなきゃお前の顔なんて、なかなか見れないんだよ。
分かってんのかよ。
お前が俺を見るせいで、俺はお前が見れないんだ。
「どした?」
気が付いたようにヤツが俺に視線を投げた。
「っでもないっ!」
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