パンッと、乾いた破裂音が室内に木霊した。

耳当てをしていても、完全に防ぐことの出来ない独特の音色は、彼が構えたものの咆哮だ。

数メートルほど先に設置された的には人型のシルエットがあり、ちょうど胸の中心部分に小さな穴がいくつか開いている。

「少し鈍ったな……」

腕に走った僅かな痺れに、逸見は不愉快そうだ。

新たなマガジンを装填しつつ、平和ボケしていた自分に舌打ち。

今のご時勢、そうそう抗争などは起きないが、馴染むまでにはもうしばらく時間を要しそうなオートマチック拳銃を、危なげない手つきで弄んだ。

サルヴァトーレの邸宅、その地下に射撃訓練場はあった。

広々とした空間には、何人かが同時に訓練出来る設備が整っていたが、今使用しているのは逸見一人きりだ。

父親との再会を終え、歌音は自室へと入った。

ゆっくりと読書を楽しみたいからと、自由時間を与えられた彼は、主の傍を離れ久方ぶりの射撃に取り組んでいる。

自動で的が取り替えられ、新しい標的へと照準を合わせた。

しっかりと両手で構える。

右手はグリップに、左手はその底に当てて。


――ターゲットをよく見ろ。流れを読め。


耳の奥で、無感情な声が聞こえたのは、そのときだった。

「……っ」

過去の残滓が、満ちる潮のように迫り、逸見は思わず息を呑む。

信じられない思いでこちらが戸惑う隙に、苦いものが胃を刺激して、喉へと這い上がろうとした。

まるで感染の早い病。

なんで、今さら。

それでもどうにか驚愕の波をやり過ごすと、彼は伸ばされる追っ手を振り切るため、的だけに意識を絞った。

なのに。


――集中を切らすな。相手を消すことだけを考えろ。


消えない声。

頭の中で、一層強い反響が鳴り渡る。

ぐわんぐわんと奇妙なエコーに、肺が締め付けられる錯覚。

胸の奥の臓器が、急に存在を主張し始めた。


――どうした、要。気が乱れているぞ。


嘲りを帯びた指摘は、実際には誰の鼓膜も揺らしてはいないのに、逸見の耳には確かに届いてしまう。




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