孤独な世界に、不安が肥大する。

震える鼓動に、焦燥が加速する。

出口のない悪夢に突き落とされた錯覚に陥れば、叫び出したい衝動が歌音を突く。

どうにか抑え込めるのは、自分の盾となった男のお陰だ。

恐怖に支配されてしまえば、エリスの行動が無駄になる。

その一心で、少年は正気を保っていられた。

エリスは無事だろうか。

秀の標的は歌音だ。

歌音が逃げれば後を追うだろう。

エリスさえ無茶をしなければ、大事には至らないはずだと、必死に言い聞かせる。

自分でも秀でもない、誰かを思うことで、どうにか理性を維持し続けた。

コツンッ、と。

絨毯に呑み込まれるべき足音が聞こえたのは、幻聴だったのかもしれない。

だが、赤い明滅を繰り返す脳内の警報に、歌音は死神の鎌の存在を確信させられた。

「っ!」

反射的に止まりそうになった足を無理やり床から引き剥がし、熱のこもる身体を動かし続ける。

脳天から爪先までを貫く疼痛を、奥歯を噛みしめて堪えた。

けれど突然の非日常に、パニックに陥っていたらしい。

数週間の滞在ですっかり把握していたはずの屋敷だと言うのに、歌音は正面に現われた扉に言葉を失くした。

突き当たりの部屋、それは行き止まりに等しい。

どうすればいいのかと、考えを廻らせるものの、打開策がひらめくのを相手が悠長に待ってくれるわけがなかった。

聞こえぬはずの足音が、コツン、コツンと接近を告げる。

歌音は即座に扉を開け、部屋へと滑り込み。

悲鳴を上げかけた。

両手でしっかりと口を塞げたのは、奇跡に近い。

夕刻の陽が差し込む客室は、茜色の赤に染め上げられていた。

惨劇を彷彿とさせる色彩の中、眼前で倒れ伏すのは数人の黒服である。

屋敷の警護を担う面々だと気付けば、背筋を冷たい慄きが駆け抜けた。

誰にやられたかなど、今更だ。

ここに至るまでに通り過ぎた部屋の内側にも、同じような者たちがいたのではないかと想像すれば、あまりの恐ろしさに震えが止まらない。




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