「私がファミリーのために心血を注いで尽くして来たと言うのにっ、ボスは自分の子供のためだけに!そのためだけに、名誉ある社会(オノラータ・ソチエタ)を去るなど馬鹿けている!今のボスは、もはや私が忠誠を誓ったサルヴァトーレ様ではないっ」
「秀、言葉を慎みなさい」

己に手を出した以上、厳罰は確定しているが、頭領(カポ)までも侮辱するのは益々首を絞めることになる。

分かっているだろうに、理性が決壊した男は止まらなかった。

憎い敵を見るように、歌音から僅かにも視線を逸らすことなく、忠実な仮面の下に隠して来た真実を叫ぶ。

「返せ、お前が奪ったのだ。冷徹なる彼の人を!お前さえいなければ、私のボスは、私のボスはっ……」
「止めなさいっ、もう――」
「お前さえいなければっ!」

血走った眼を見開き、歯を剥き出しにして、悪意に取り憑かれた秀の気迫。

暫時、部屋にいる誰もが呑まれた。

瞬間。

パンッと、破裂音にも似た銃声が、歌音の耳を劈いた。

秀を抑え込んでいたエリスの身体が、ぐらりと傾き後退する。

そのダークスーツの腹部が、見る間に暗色を深め、遂には滴り落ちた生命の色。

拘束から解き放たれ、ゆっくりと身を起こす秀の右手に、小ぶりのリボルバーが収まっていると気付くや、少年は急襲した現実に息を詰まらせた。

「え……」
「歌音、様……早く、お逃げ下さい!」

呆然とする時間はなかった。

語気も荒く叱責されて、歌音は動かざるを得ない。

緊急時において、戦闘能力を持たない己に出来ることは、逃走だけだ。

常時、命の危険に脅かされて来た少年は、幼少期から教え込まれた通り、一目散に扉へと走り出す。

「逃がすかっ」

小さな背中に向けられた銃口が、次の咆哮を上げる前に、横合いから飛び出したエリスが狙いを定める腕に掴みかかった。

「このっ……」
「歌音様っ、要様を――」
「離せ、役立たずが!」

再び木霊した銃声を、歌音は駆けだした廊下で聞いた。

誰か、誰か、誰か。

助けを求めたいのに、広い屋敷をいくら進んでも、一向に警護の者に遭遇しないのは何故だ。

普段ならば、銃声が聞こえようものなら、何人もの人間がすぐさま動き出すと言うのに、どうして一人の姿も見えないのだ。




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