例えば贈り物をしてみたり、一緒に遊びに出掛けたり、他愛のない話だろうと話しかけた。

思いつく限りの手段を使って、意地のように彼の無表情を崩してやろうとした。

最初はまったく変化などなかったけれど、次第に逸見が困惑するのが分かった。

どうして歌音が構うのか、さっぱり理解できないと、口には出さないまでも気配で伝わって来た。

「聞かれたことがあったよ。私はあなたの「側近」として役立っているか、って」
「それは……」
「うん。エリスくんも、僕に聞いたよね」


――私は、貴方の「側近」としてお役に立てているのでしょうか?


あのとき感じた既知感は、ずっと昔にも問われた質問だったから。

幼い時分の己が、逸見になにを返したかまでは覚えていないものの、印象深いそのセリフは記憶に残っていた。

「僕はね、無表情の逸見と一緒にいて、寂しかったけれど、退屈ではなかった。嫌でもなかった。絶対に笑わせてやるって、密かに勢い込んでいたからかな。楽しかったよ」

だから、一緒にいられた。

常に「側近」の顔をしている男の傍にいても、苦痛ではなかったのだ。

エリスは逸見によく似ている。

秀の教育を受けたために、感情表現の仕方を知らず、優しさに戸惑い、自身の立場が揺らぐのを恐れた。

同じ表情で、同じ問いをし、同じ方向に歩み始めようとしている。

でも。

「ごめんなさい、エリスくん。僕は君に、逸見 要を重ねていた」

別人だ。

歌音は寝台から立ち上がると、真っ直ぐに伸びた背中へ告げた。

落ち着いた足取りで、身動ぎ一つしない男の正面に回り、その褐色の瞳を確かに見据えて。

「君を僕の側近にすることは出来ない」

はっきりと、断言した。

短い間とは言え、真摯に仕えてくれたエリスの心を踏みにじる暴虐。

彼の心には偽りない歌音への忠誠が溢れていたのに、与える仕打ちがこれとはまったく惨い。

それでも歌音に言える言葉は、一つ。

昔から変わらぬ唯一の存在に焦がれる歌音は、もう己の真実から目を逸らしたくなかった。

「それは、どういうことでしょう。歌音様」
「えっ……?」
「逸見様」

言葉もなく見つめ合っていた二人の狭間に飛び込んで来た声に、歌音はまさかの思いで扉を振り返った。

視覚から得た情報を脳が処理し終える前に、エリスが第三の人物の正体を音にする。

そこに一切の動揺は含まれておらず、彼がその侵入をすでに認識していたのだと悟った。




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