歌音は、しっかりとエリスの胸に抱きとめられていた。

彼が持っていたはずの本は、階段の踊り場まで散らばり落ちている。

あの物音は、きっとこれが原因だ。

「申し訳ありません。御身の安全を優先して、本を投げ出してしまいました」
「ううん、気にしないで。僕がぼぅっとしていたのがいけないんだもの。助けてくれて、ありがとう」

慌てて言えば、エリスはふっと頬を緩めた。

人形めいた顔が、緩やかな笑みを浮かべる。

初めて目にする、はっきりとした笑顔。

「歌音様は、少し不注意です」


――歌音様、もう少し注意を払って下さい。


眩暈がした。

デジャヴュ。

眼前でくすりと笑うエリスに、逸見の姿が重なる。

同じだ。

いつかのときと同じなのだ。

エリスと一緒にいて、逸見を思い出すわけ。

答えはとてもシンプルで、あまりに残酷だから、すぐに分かったのに目を背けていた。

エリスは似ているのだ、出会ったばかりの頃の逸見に。

僅かな動きしか見えない面も、無機質な瞳も、機械的な忠誠心だって。

何もかもが、歌音の側近になりたての逸見と似ているから、歌音は連想せずにはいられない。

エリスに慣れていたのではなかった。

エリスに親しみを抱いていたのではなかった。

歌音はエリスに、過去の逸見を見出していただけだ。

そうして、別人故に発生する違和感は、歌音に逸見の存在をさらに強く喚起させた。

「ぼく、は……」
「歌音様?どうされました」
「ごめっ……ごめんエリスくんっ!」

一気に膨れ上がった罪悪感が、破裂する。




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