冷え込んだ冬の朝だった。

薄く吐き出した息が、真っ白なもやとなっては、上へ上へと上っていく。

小さな天窓から差し込む光源を頼りに、彼はそのもやの行方を眺めていた。

もはや手足に力は入らない。

埃くさい床の木目に片頬を押し付け、投げ出された四肢は僅かにも動かず縫いとめられた標本のようだ。

カチカチと凍える寒さに悲鳴を上げていた歯も、いつからか音を立てなくなって、乾いた唇を細く開けたまま固まっていた。

唯一動くものと言えば、吐息の名残を追う眼球のみ。

流れ込む外気に紛れ、空気に溶けては消える煙を、何とはなしに見つめ続けた。

その瞳さえ、ともすれば目蓋を下ろし、彼を果て無き暗黒へ追いやろうとする。

あぁ、死ぬのか。

少年はそう思った。

これまでに幾度となく抱いた予感に、特別な何かを感じることはない。

ただ、今度こそそのときなのだと、漠然と悟るだけだ。

ほっとした。

熱を失って久しい体は、鋼のように硬かったけれど、全身の筋肉が弛緩した。

ようやく終わるのだ。

自分の命が、ようやく終わりを迎えられるのだ。

しかし、生命の終焉に、純粋な安堵を覚えるには、彼はあまりに幼い。

骨に皮だけが張り付いたような腕は細く、全体的に随分と小柄だ。

頬骨の浮き上がった顔は、過酷な現状に憔悴しきり、異様な迫力を醸し出してはいたが、はっきりとあどけなさが残っている。

十歳がいいところだ。

けれど、他人から見ればあまりに短いこれまでの人生は、彼にとってみれば長過ぎるほどに長いものだった。

訪れる終わりを、心穏やかに受け入れられるほどに。

いや、喜びさえ見出すほどに、長かった。

視界が歪む。

何度目のことだろう。

屋外との温度差がほとんどない室内の、無機質な灰色の壁が湾曲する。

吐き出すもやが、白いフィルターをかけたように、世界を滲ませる。

今度はこれまでのように、時間が経っても目の前が明瞭に戻ることはなかった。

いよいよ来たか。

少年は目を開けている必要性がないと、ようやく気付き、そっと暗闇に沈もうとした。

終わりのない暗黒へ。




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