「エリスくんは、いつからファミリーに?僕が本家にいるときに、会ったことはなかったよね」
「私の父に当る男が、マルティーニの構成員でしたが、シチリアのお屋敷に入ったのは、歌音様がアメリカへ渡ってから二年後のことです」
「え?そうだったの?」

ならば秀に会ったのは、それほど昔のことではない?

父の片腕である男の暴挙が発覚したのは、歌音と逸見が共に十歳のころ。

それからすぐに、本家に軟禁された秀から引き離すため、歌音たちはアメリカの別宅で学院入学までの、残りの二年間を過ごした。

「あの、エリスくんって今いくつ?」
「今年で十七になります」

と、言うことは、彼が秀と出会ったのは六年前。十一歳の時ということになる。

どういうことだ。

十一歳ともなれば、すでに人格形成の初期段階は終わっている。

幼少時から秀の教育を受けてきた逸見ならばともかく、その年頃のエリスをここまで無機質な人格になるよう矯正するのは、不可能ではないだろうか。

自分の対面に直立した男の顔を、不躾なほどまじまじと見る。

青い視線に晒されても、エリスの表情はぴくりともしない。

鉄壁の仮面。

いや、待て。

赤みを帯びた黒目が、やや困惑しているような気がする。

「ごめんね、他意はないんだ」
「いえ……。私の顔に、何か問題が……?」

確認のために言えば、エリスの双眸は更に感情を揺らめかせた。

戸惑っているのが、どうにか分かった。

ほとんど表に現れない彼の胸中は、本当に微細ながら、瞳にのみ出ているのだと確信した。

気付けたのは、凍えた心を持った能面と接し続けた歌音だからこそ。

他の者が見たところで、誰もエリスの心の欠片を見つけられないはずだ。

逸見よりもずっと矯正されている彼だが、秀の言うような「成功」の状態でもないのではないだろうか。

「エリスくんは、本家で秀の傍に?」
「はい。内務のお仕事をされていた逸見様に、側近になるための指導を受けました。父母共に他界していたので、ファミリー内で面倒を見てくださることになったのです」
「そうだったんだ。側近の話っていうのは、いつから聞かされていたのかな」
「最初からです」
「え?」
「始めにお会いしたとき、逸見様に歌音様の側近になれと、言われました。それ以降は、たびたび逸見様が私の方へいらして下さって。本格的な指導に移ったのは、私が本家に入ってからですが……」
「ちょっと待って」

思わず聞き逃しかけ、慌ててストップをかける。




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