逸見が捧げた感情は、忠誠心だけ。

それ以上でも、それ以下でもない。

でも。


――誰のことを守りたいと言っているの?


喉元まで出かかったことは、過去に何度あったか。

あの二つの眼に映る歌音は、果たしてどのような姿を持っているのだろう。

守るべき主人、神聖なる存在。

そんなフィルターをかけたニセモノか、或いは張りぼてを、逸見は盲目的に見つめているだけだ。

尊ぶものを守り支えることだけを胸に、絶対の対象として扱ってくれる。

過剰なほど大切に、息苦しいほど大切に。

まる地上に在るすべてのもの中で、唯一の聖なる救世主(メシア)のように、大切にしてくれるのだ。

けれど、それは決して歌音ではない。

彼が作り出した虚像。

蜃気楼のように儚く、夢のように掴めない、理想像に過ぎない。

現実の歌音は、ただの人間だ。

逸見の何気ない一言に傷つき、僅かに空いた隙間に寂しさを抱き、真実に触れられぬことを何より悲しく思う。

逸見の親衛隊のことだってそうだ。

過去、何度となく制裁を繰り返されて来ても、彼に伝えないのは、親衛隊の面々の中に己の本音を見つけてしまったからである。

逸見をいいように使っている、立場を利用して縛り付けている、優しさに付け込んで恥ずかしくないのか。

投げつけられる糾弾はどれも、覚えのあるものばかり。

深層心理で何度となく抱いた自己嫌悪そのままだった。

忠誠を誓われ傅かれることを嘆くくせに、手放しもせず彼に守られている。

「命令」の一言で、渋る逸見に友人関係を強いている。

拒絶されないと確信しているからこそ、今、彼を遠ざけていられるのだ。

傲慢で身勝手で卑怯な己を、心の底から嫌悪し自嘲する。

そんな自分と決別したくて、歌音は親衛隊の生徒たちの罵倒を甘んじて受けていた。

彼らの弁をはっきりと否定できたとすれば、それは歌音が今の自分から脱却できた証。

胸に巣食う罪悪感の理由がなくなったからこそ、「違う」と言えるはず。

歌音は強い声と心で持って、いつかの日か醜悪な業を断ち切るのだと決意していた。

だから逸見に隠したままでいると言うのに、現実はどうだろう。

いくら心に決めているとは言え、未だに歌音は制裁を浴びている。




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