「で、なぜお前がここにいる――逸見 秀」

銃はそのまま、逸見は目だけを動かし、離れた位置に立つ男へ問いかけた。

帯びた意思は、相手が父親とは微塵も思っていないと主張している。

「エリス、ナイフをしまえ。分が悪い」
「違うな。こいつが俺より弱いだけの話だ」

相手の神経を刺激するようなことを、わざと言う。

が、エリスが再び敵意をみせることはなかった。

大人しくナイフを鞘へと収める。

従順な態度に逸見は怪訝そうだ。

相手が引いてしまえば、こちらも銃を下ろさないわけにはいかず、納得しかねる顔でバタフライナイフ共々しまった。

「歌音様、今は私が指示を出しましたが、これからは貴方様がエリスに命令を与えて下さい。いらぬ戦闘を回避したければ、一言「止まれ」と言えばいいのです。エリスは貴方様の側近なのですから」
「待ってください!僕はまだ、了承したわけではありませんっ」
「側近?どういう意味だ。歌音様の側近は私の役目だぞ」
「ふっ……失敗作が大きく出たな。要、お前に歌音様を真実お守りすることは出来ない」

まるで無知を嗤うような秀に、逸見は歌音へと顔を向けた。

「……歌音様、これは一体どういうことなのです」
「違うんだっ。秀が勝手に言っているだけなんだよ。彼を、君の代わりに僕の側近にするべきだって……」
「なにを……。そこの反逆者、耄碌したのならシチリアに引き篭もっていろ。わざわざ来日されても迷惑なだけだ」

くだらない提案を、口端を持ち上げ一蹴する。

だが、血の繋がりを感じずにはいられないほど、よく似た顔で、秀は息子とまたよく似た笑い方をした。

「自分に歌音様が守れると、本当に思っているのか?それほどの力量があると?愚かだな。お前がどう足掻いたところで、その実力など高が知れている」
「その愚か者に負けたこの男に、歌音様をお守り出来ると考えているのなら、やはりお前の脳細胞は完全に死滅したな。恥を晒しに来るより、棺桶の準備に取りかかった方が賢明だと思うぞ」

これには返しようがなかった。

自信を持って連れて来たエリスは、今しがた逸見に完敗したばかりなのだ。

矢面に立たされそうな気配に、歌音は無表情で直立しているエリスを、密かに窺った。

彼の顔から、その真意は読み取れない。

歌音の視線を感じたのか、エリスがふとこちらを向いた。

暗い瞳に晒されて、どうしていいのか分からない。

どことなく気まずさを抱くのは、自分が彼を選ばないことへの、偽善的な罪悪感のせいだろうか。

言葉にし難い無言の見つめ合いに、歌音は小さく微笑んだ。

逸見との言い争いに先がないと分かった秀が、矛先を少年に変えたことで、歌音はエリスの眼が、微かに揺れたのを見逃した。

「歌音様、よくよくお考え下さい。御身に傷をつけるこの者を、お傍に置き続けて、果たして貴方様は堪えられますか?」
「……僕は、傷を負わされてなどいません」
「では、先ほどお言葉に詰まられたのは、なぜです。アレがきちんと貴方様をお守り出来てはいない証なのではありませんか?」
「いい加減にしろ、ファミリーに背いたお前の言葉に、誰か耳を貸すとでも思ったか」
「黙れ、「失敗作」がっ」

その言葉に、逸見の肩が反応したと、気付いた者は誰もいなかった。




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