顔を胸板へと押し付けられ、抱き込むようにして地面を転がる。

突然の事態になす術もない歌音の耳を、乾いた発砲音が叩くのは間もなくだった。

パンッ!と一つ鳴ったかと思えば、先ほどまでエリスのいた場所のレンガが小さく破裂する。

微細な破片が宙を舞う中、更にもう数発。

今度は秀の足元が弾け、彼はバッと後退しつつスーツの懐へと手を入れた。

「抜くな。この屋敷の中で、お前に銃を取り出す権利はないはずだ」

射抜くほどに怜悧な警告が、緊迫した世界に落とされた。

屋敷の方から静かに長い足を進めて来る男を、エリスに助け起こされる歌音は、ほっと安堵の思いで見つめた。

「逸見っ……」
「ご無事ですか、歌音様。遅くなり、申し訳ありません」

どこから持って来たのか、オートマチック拳銃を構えたまま、逸見 要は少年を見やった。

主の肩を抱く見慣れぬ異国の男に、不愉快を隠そうともせず、眉が寄せられる。

「そこの侵入者。殺されたくなければ、三秒以内に歌音様を解放しろ」
「………」
「日本語が分からないか?次は無能な頭に語学を叩き込んでから、この地を訪れるんだな。もっとも、二度目があればの話だが」

狙われているのが自分だと察知したエリスは、すぐに歌音から身を離した。

あっさりと歌音が解放されたことに、逸見は不可解そうだ。

相手の目的がまるで読めないのだろう。

よもや、逸見のポジションに取って代わろうとしている、秀の連れてきた側近候補だとは、夢にも思うまい。

「……歌音様、こちらへ」

逸見は警戒を緩めぬまま、歌音を呼び寄せた。

ことの展開を説明するため、彼のもとへ駆け寄ろうとした歌音は、しかし再び動き出した三人に足を止めざるを得なかった。

逸見の注意がエリスへと向いている隙に、秀は今度こそ銃を引き抜くと、素早く引き金を絞った。

空を裂いた弾丸は、容赦のない軌道を描く。

自分の実の息子へ取る仕打ちではない。

逸見は地面を蹴り被弾を免れると、秀同様。

肉親に向けるには冷た過ぎる殺気で、銃口を定める。

が、エリスの動きは風のようだった。

身を低くして逸見に接近すると、取り出したダガーナイフを一閃させた。

ぎりぎりのところで半身を逸らすも、距離が足りない。

間合いに入られたままだ。

そこに秀の銃が狙いをつける。

いけない。

秀は、本当に逸見を殺してしまう。




- 18 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -