Secret Snow White.




カーテンの隙間から漏れ入る朝日は、白く柔らかい。

小鳥の囀りが清澄な空気を揺らし、夜の名残を浄化する。

一日の始まりに相応しい、爽やかな静けさが破られたのは、次のとき。

「千影ぇぇぇ! てめぇ、どこだぁぁぁ!」

国中に響き渡るかのような大声に、天蓋付の寝台に埋もれていた少年は起床を余儀なくされた。

「……またか」

寝起き特有の掠れた声で呟くと同時に、部屋の扉が勢いよく開かれる。

不躾な訪問者は、予想通りの人物であった。

「てめぇ……また、また!」
「おはよう、仁志。用件に見当は付いているから、出直してこい。今、何時だと思ってるんだよ。早過ぎる」
「うるせぇ、出直してなんかいられるか! 今日という今日はマジで許さねぇ!」

ベッドヘッドに寄り掛かったまま言えば、相手は金髪の下に並ぶ鋭い双眼を一層つり上げる。

ずかずかと室内に踏み入って、強制的に起されてうんざり顔の少年――千影を睨み下ろした。

「お前、また勝手に《鏡》に差し入れしやがっただろ!」

悲愴ささえ感じさせる糾弾に、千影は内心で「やっぱり……」と息を吐いた。

碌鳴王国は魔法に満たされた国だ。

国民は多かれ少なかれ誰もが魔力を有し、不思議の技が生活に根差している。

それは政治形態にしても同じこと。

国を治める《王族》という役職には、魔力の高い者が選出される。

他国と異なり血統による縛りがなく、すべては魔法の実力によって決定されるのだ。

現在、この碌鳴王国を治めるのは《王》に任じられた仁志 秋吉。

そして《王女》の地位に選ばれた千影であった。

「仕方ないだろ、綾瀬先輩が夜食作ってくれって言うんだから」
「だからって、俺に無断ですることねぇだろ!? てめぇが夜食なんて差し入れたおかげで……!」
「おかげで?」
「約束してた早朝のリンゴ花狩りが延期になったんだよ!」
「あー……肉豆腐作ったからな、そりゃお腹減ってないだろ」

「満腹、満腹」と満足そうに笑う《鏡》こと綾瀬 滸を思い出し、千影はそっと視線を流した。

《鏡》は碌鳴王国の政治顧問だ。

宰相よりも《王》に近い位置にあり、腹心となってその政策を支える役職である。

現《鏡》の綾瀬は、千影や仁志と同じく王立魔法学校の卒業生にして、千影たちの一学年先輩に当たり、加えて現在の役職を得る前から仁志の片想いの相手であった。

「今朝、俺が何て言われたと思うよ? 迎えに行ったら「千影くんのお夜食食べたから、お腹いっぱい。リンゴ花園に行くのは、また今度にしよう」……だぞ!? てめぇにこの気持ちが分かるのか!」
「いや、うん、なんかごめん」

綾瀬に頼まれただけの千影に非はない。

分かっていても、仁志の綾瀬に対する並々ならぬ恋心に同情して、つい謝罪の言葉が口をつく。

腹黒とも天然ともつかない綾瀬に振り回される友人の姿は、涙すら誘う。

だが、心にもない謝罪はするべきではなかったのだ。

千影は自らの発言を悔いるのは、これから約二時間後のこと。




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