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平行線のまま続けられる罵り合い。

普通ならば、海賊の天敵である海兵など、間違って助けたとして即座に殺されるがオチだ。

今の今まで、生きながらえている理由は簡単。

扉の外にいる男――この海賊船の船長である穂積 真昼に、スカウトをされているためである。

先の交戦で人材を失ったらしく、有能な乗組員を求めていたところ、偶然にも漂流する千影を拾った穂積は、その実力を知るや即座に勧誘をして来た。

いくら海軍に見捨てられたからと言って、了承できることと出来ないことがある。

穂積が賭けを持ちだしたのは、千影が拒絶を始めて三日目の話。

七日間、船底の独房で過ごすことが出来れば、勧誘を諦め陸に送り届ける。

つまり、千影が堪え切れず音を挙げた時点で、海賊の仲間入りだ。

賭けに乗ったのは言うまでもない。

餓死しない程度の食糧は与えられるのだから、七日間くらいどうにかなるはず。

そう考えたのを後悔したのは、割かし早い段階だった。

船上では火の脅威が常に警戒されている。

独房に火を灯すことは禁じられ、陽の光りも差し込まぬ完璧な闇に孤独感が押し寄せ、時間の感覚は壊れた。

他に誰もいない、自分の存在すら見えない空間で、今が朝なのか夜なのかも分からず、ただじっと耐え続ける苦痛。

穂積はそれを知っていたのだ。

独房に監禁されてから、恐らくは二日後だろう。

今のように扉越しからかけられた穂積の言葉は、「ここから出たいだろう、俺の航海士殿」。

ふざけるな、と返せた自分を褒めてやりたい。

穂積の驚く気配に、勝ったような心持になった。

「ここから出たくはないのか」

分かり切ったことを訊いて来る男に、千影は言い返そうとして、やめた。

いつからだろう。

穂積の声に不安が混じるようになったのは。

強く真っ直ぐな口調は変わらないのに、千影を気遣う色が言葉を交わすたびに濃くなっている。

「そっちこそ、俺を仲間にしたいんじゃないのか」
「したいんじゃない、するんだ」

不遜な答えについ笑ってしまう。

「……なんだ」
「貴方のような人が海賊で、それも船長かと思うと意外で」
「っ」

彼に対して使った初めての敬語。

それは本心から出て来たものだった。




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