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その金髪頭が見えたのは、碌鳴館にほど近い並木道でのことだった。
ふと道から目を逸らせば、林立する木々の狭間にチラリと陽光を弾くそれに気が付いた。
思い当たるのは一つだけで、光は碌鳴館へ進んでいた足を止めると、一つ首を傾げてから林の中へ入って行った。
「こんなところで何してるんだ、仁志」
少年の視線の先には、学院中もっとも目立つ髪色をした友人がいた。
地面に突き立てたスコップと、ブレザーを脱いだワイシャツ姿に、違和感を覚える。
彼は近づいて行く光に気がつくと、ぎょっと目を見開き慌てて叫んだ。
「ちょ、待て!それ以上近づくなっ」
「え?」
突然の制止に、思わず従ってしまう。
まさかそんなことを言われるとは思わず、驚きに満ちた表情で仁志を見つめた。
「なんだよ、大きな声だして」
「あ、悪ぃ……。いや、でもいいか。それ以上前に進むなよ?」
「どうして」
「足元、よく見てみろ」
やけに重々しく言われ、光は眉を寄せながら言われた通り地面へと目を落とした。
「あ……」
「気付いたか。な?ここがどれだけ危険か分かったろ」
「危険って言うか、これは」
「踏めばあの世行きだ。いいか、慎重にな」
念を押す男の顔は真剣そのものだ。
深刻な面持ちでぐっと頷かれて、光は盛大な溜息をはいた。
足元に広がる地面は、一見他と変わらない。
だが、極僅かに他のところと色が異なっている。
一度掘り返され、元のように偽装されているのだ。
観察力に優れた者でも、よくよく注意して見なければ気付けないだろう。
周囲を見回せば、その僅かな痕跡がここら一帯に幾つも見受けられた。
間違いない。
これは――
「落とし穴だ」
光が確信をすると同時に、仁志が答えを発表した。
もう一度、溜息が洩れる。
仁志の格好を見れば、この大量の落とし穴の制作者は間違いなく彼だ。
高校生にもなって、こんな悪ふざけをするなど信じられない。
額を抑えた光は、呆れているのを隠しもせずに訊ねた。
「一応までに聞くけど、なんでこんなことやってんだよ」
「昨日、テレビで特集やってて。俺でも作れそうなヤツばっかりだったからな」
「だからって本当に作るなよ。暇なのか」
「誰に言ってんだよ。生徒会役員が暇なわけねぇだろ」
さも当然のように返されるが、ならばこんな下らない一人遊びなどしていないで、仕事をしろと言い返したい。
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