淀みなく告げたのは、警察軍が所有する以上の情報だった。

有り触れた犯人像の思わぬ特徴に、反応を見せたのは部下である。

傍らから伝わる微かな動揺を無視して、大佐は暗黒色だけを視界に留めた。

「頬の傷、か」

恭夜は情報を吟味するように口の中で転がすと、ふっと緊張を緩めた。

「残念だが、その程度のカードでは軍に協力できない」

あっさりとした言葉は、薄々予想していたものだ。

彼らがどのような情報網を持っているかは不明だが、警察内部に情報提供者がいるならば、犯人の年齢や背格好を知っていても不思議ではない。

恭夜の様子から推察する限り、頬の傷までは掴んでいないようだったが、それ一つで手を貸してもらえるほど、警察軍とヴィレンの距離は近くなかった。

「……わかった」

紡は短く言うと、潔く踵を返した。

情報が得られない以上、ここにいる意味はない。

交渉を続けたところで、手札のないこちらは圧倒的に不利だ。

つけ入る隙を与える前に撤退するのが正解である。

収穫を得られなかったのは痛いが、最初から期待はしていなかった。

【残響】との接触を決めたときとは異なり、今は沙希から入手した手掛かりがある。

心理的に抵抗はあるが、それを基に捜査を展開すればいい。

考えを巡らせつつ地下通路に降りようとした紡の足を止めたのは、甘い低音だった。

「一件目の事件で死んだのは、ヤクの売人だ」

紡は小さく息を呑んだ。

静かに背後を振り返り、探る瞳で声の主を射抜く。

「司令官殿には、儲けさせてもらったからな」

そう言って、アッシュグレーから覗く双眸を細めたヴィレンは、愉悦の微笑みを湛えていた。




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